メガネストの読書日記

眼鏡好きのメガネストが、読書日記をつける

ベリンダ・バウアー『ブラックランズ』

 

ブラックランズ (小学館文庫)

ブラックランズ (小学館文庫)

 

 叔父の死体を見つければ、すべてが変わると思ったんだ。

 

 というわけで今回は、ベリンダ・バウアー『ブラックランズ』(小学館文庫)です。

 お初の作家です。なんでも、これがデビュー作なのだとか。カテゴリが《ミステリ》になっていますが、どちらかといえばスリラーという表現がぴったりくるような作品でした。

 それでは、感想。

 結論から言えば、すげーよかったです。今年のベスト候補。

 舞台がイギリスなのですが、イギリスのどこか煙ったような薄暗さと、湿った不気味さが文体からにじみ出ているようでした。

 少年が主人公、というのもよかったように思います。

 まだティーンエイジャーにも満たない少年スティーヴンから見た、暗く影を射している家族の様子や、自分を取り巻く状況、そして、その中に一縷の希望を見出す様子が素晴らしい。思うに、誰にでもこういう側面は存在していて、それを拡大した物語がこの『ブラックランズ』なのではないかと思いました。

 作中でスティーヴンは叔父の死体を捜すために殺人犯と文通をするのですが、ここがまた素晴らしかったです。殺人犯が刑務所の中にいるという状況から、まともなやりとりができない中で、お互いの知恵をせめぎ合うようなやり取りは鳥肌が立ちました。しいて言うのであれば、スティーヴンがやや大人びすぎているような気もしましたが、物語に登場する少年としてはそこまで違和感はないかな、と思います。

 そしてなにより心を惹きつけられたのが、ラストの展開でした。

 殺人犯とのやりとりを経て、スティーヴンはいよいよ《ブラックランズ》に死体を捜しに行くのだが……という、物語が終わりに向かっていくパートは圧巻のひと言で、ここだけを読んでほしいがために本作を強く勧めたい、といっても過言ではありません。

おすすめです、さあ読むのだ!

柴田錬三郎『花嫁首~眠狂四郎ミステリ傑作選~』

 

花嫁首 (眠狂四郎ミステリ傑作選 ) (創元推理文庫)
 

  眠狂四郎殿とお見受けする。

 

 ということで今回は、柴田錬三郎『花嫁首~眠狂四郎ミステリ傑作選~』(創元推理文庫です。

 

 本作は、柴田錬三郎が産みだした孤高の剣士眠狂四郎が登場するシリーズから、ミステリ仕立てになった短編21編をピックアップして編まれた短編集になります。

 眠狂四郎は、今よりおおよそ六十年前に生まれたわけで、その作品も当然、生まれてから半世紀ほどが過ぎているわけです。なのでさすがに古めかしさは否めないのですが、それでも、やはりいい

 美しいロジックがあるわけでなく、ミステリとして見れば完成度の高くない作品も見受けられますが、なんといっても様式が美しい。序盤に謎が提示され、眠狂四郎が一刀のもとに解決する。ミステリのひな型としての様式美がそこにあるように思うのです。

 用意された謎も多彩で、密室ものからハウダニットまで、次々と現れる様々な色の謎が読者を楽しませてくれるでしょう。

 僕の好みとしては『恋慕幽霊』『千両箱異聞』そして表題作の『花嫁首』あたりがよかったですが、なにせ21編も所収されているので、読む人ごとの好みが分かれるところかと思います。

時代小説なので好き嫌いがするかと思いますが、眠狂四郎の魅力を知りたい方は、是非ともご一読を。

はやみねかおる『ディリュージョン社の提供でお送りします』

 

 メタブックを止めることはできない、絶対にだ。

 

 ということで今回は、はやみねかおる『ディリュージョン社の提供でお送りします』(講談社タイガです。

 

 初はやみねです。

 正直、今までなんで読んでなかったのか不思議なんですが、多分あれですね。刊行されている作品が多すぎて、どれから手を付けていいのかわからなかったパターンですね。

 で、今回たまたま書店に足を運んだときに見かけたこちらを一冊目として選ばせていただきました。なんか、単巻ものっぽいし、いいよね、と思って。

 知り合いの方曰く『大人がはやみね始めとするにはいい一冊』とのこと。期待が高まりますねえ。

 

 ということで感想。

 面白かったです。

 物語の世界を現実に体験することができる新しいエンターテインメント《メタブック》なるものが存在する世界。そんな《メタブック》を扱う企業《ディリュージョン社》が舞台となっております。

 そこで働く森永美月はある老人の依頼を請けることになります。曰く『不可能犯罪を体験したい』

 この難題に取り組んでいくうちに様々なトラブルが起こって……

 というのが本作のあらすじになるわけですが、あらすじ自体はいたってシンプルですね。しかし、内容は素晴らしかったです。

 ちょいちょい挟まれるミステリファンをニヤリとさせる小ネタ(これがわからなくても十分に面白いと思いますが、やはりわかったほうが面白いでしょう)もさることながら、ことに重要なのは主人公の美月の視点だと思うわけです。

 少しネタバレになるかもしれませんが、美月まったく本を読まないというキャラ付けがされています。これがこの作品のキャラ同士のやりとりにいいアクセントを与えていると思うのです。

 彼女の呈する疑問は、言われてみれば『なるほど』と思うことばかりです。ミステリに慣れ親しんでいると忘れがちですが、たしかに探偵は妙に勿体つけたがるきらいがありますね(これは某鍵屋が出てくる作品でも言及されていましたが)。

 肝心の、物語に横たわる謎のほうですが、少しシンプルだったなあ、という印象。ただ、この作品は《メタブック》を完結させるために奔走するディリュージョン社のスタッフの奮闘ぶりを楽しむのがいいようにも思うので、ここはそれくらいシンプルにしておくべきなのかもしれません。

 全体としては、美月の妙な方向にポジティブなキャラクターが微妙に気になるものの、非常によい初はやみねだったなあ、という印象。

 とりあえずほかの作品も見つけて買っちゃおうかなあ、と思った次第。

 しかし、この刊行量……どれから手を付けたらいいんだ。

村田喜代子『縦横無尽の文章レッスン』

 

縦横無尽の文章レッスン (朝日文庫)

縦横無尽の文章レッスン (朝日文庫)

 

 文章にとって大切なのは、読むことか、あるいは書くことか

 

ということで今回は、村田喜代子『縦横無尽の文章レッスン』(朝日文庫です。

 本書は、作家の村田喜代子がある地方大学で受け持った講座を一冊の本にまとめたものです。

 以前どこかで、村田喜代子が大学の講義を受け持っているという話を耳にして以来、一体どんな講義が開かれているのだろう、と思っていつつも、さすがに聴講に行くことができない(僕の住んでいる場所からはびっくりするくらい遠いのです)ので、その内容を知ることはできなかったのですが、本書を購入したことによって、その一端を知ることができました。

 内容はバラエティに富んでいますね。扱う文章が多彩で、小学生の作文から、ゴリゴリの理系文章まで、更には前衛的な文章も……といった感じで、これを独力で網羅するのはなかなか難しいでしょう。しかし、本書を読めばそれぞれの講義のテーマと、その題材を照らし合わせてどのようなことが語られているのかを感じつつ、それぞれの本に手を伸ばす機会も与えられるという、個人的には一石二鳥感の強い本でした。

 また、講義の話の合間にちょこちょこと日々のエピソードが挿入されるのもいいですね。村田喜代子の小説以外の文章って、実はこれが初めてだったので、なんだか新鮮でした。

 そして、最後の『最後の授業・創作必携』は一読の価値があるでしょう。癖と個性は違うもので、それはしっかりと認識していなければならない、と強く感じさせられました。

大山誠一郎『密室蒐集家』

 

密室蒐集家 (文春文庫)

密室蒐集家 (文春文庫)

 

 密室蒐集家と申します

 

 ということで今回は、大山誠一郎『密室蒐集家』(文春文庫)です。

 本作は連作短編集となりますので、とりあえず個別に感想をば。

 

・『柳の園~一九三七年~』

 非常にクラシカルな密室ものですね。

 時代背景にしては千鶴がやや現代的すぎる気もしないでもないのですが、そこはまあ、ご愛敬。

 基本的にはロジカルでとても楽しめたのですが、ちょっと読者にヒントを与えすぎかな、という気がします。ここまで親切じゃなくてもいいかな。

 

・『少年と少女の密室~一九五三年~』

 本書で一番の問題作だと、個人的には思うのです。

 これを密室ものと呼ぶかどうか、そもそもそこで意見が分かれそうなところを持ってきて、事件の成立が偶然に頼り過ぎている点が、個人的には大きくマイナスかなあ、と思います。解決が偶然性の高い展開になっているのは、まあ密室蒐集家のキャラクター上別に構わないかな、という気がしますが。

 

・『死者はなぜ落ちる~一九六五年~』

 これもちょっと、うーん、という感じ。

 そもそも、死体に関するある矛盾がこの結末に向かうために用意されたように感じる、という時点で個人的にはちょっとどうかと思うわけですが、これも様々な偶然によって事件が成立しているのがよろしくない。

 

・『理由ありの密室~一九八五年~』

 この短編集の中で一つ挙げるとすれば、この話かな、という気がします。

 本編からややずれますが、密室を作る八つの理由はなかなか興味深い話でした。それに付随する九番目の理由で一つ話が書けそうなのに、なぜそうしなかったのだろう、というのは素朴な疑問ではありますが。

 この話だけ倒叙もののようになっているのも、目先が変わるという意味ではよかったように思います。

 ただ、鍵を飲み込んだ理由に関してはまったく納得いってません。

 

・『佳也子の屋根に雪降り積む~二〇〇一年~』

 これもなかなか。

 ここまでの四編は割と読者に親切なつくりになっていたのですが、これはややアンフェアな気がしないでもないです。

 逆説的に見ていけばちゃんと話がつながっているのですが、普通に読んでいる段階ではほとんど真相に到達できそうな要素がないのが気がかり。犯人を決め打ちしていけばあるいは……という気がしないでもないですが。

 

 という感じ。

 まず断っておきますけれど、基本的にはクオリティが高く、非常にロジカルな作品集だったと言えると思います。だからこそ、ややロジックに頼り過ぎた面があるようにも感じられるのも事実で、それが作品のクオリティにわずかな瑕疵を生んでいるようにも見受けられます。

 本作には五つの話が収録されていて、五つの密室が登場しますが、それぞれが違った必然性を孕んでいて非常にバラエティに富んだ作品群となっていると感じました。まさに密室蒐集家の面目躍如といったところ。

 本書は年代順に話が所収されていますが、密室蒐集家というキャラクターの特性上、そこはあえて年代順にする必要がなかったのでは、と思います。一九八五年の事件には密室を作る八つの理由が語られる部分がありますが、これは一番最初に知っておきたかったところ。そういう微妙な部分がもったいないな、と思います。

 とはいえ、短編一つ一つのクオリティは高かったので、読んで損はしないと思います。

暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を!10~ギャンブル・スクランブル~』

 

 

 さて、今回は暁なつめこの素晴らしい世界に祝福を!10~ギャンブル・スクランブル~』(角川スニーカー文庫です。

 

 

 ア イ リ ス 、 再 登 場 !

 ということで、今回もダクネス回……と思いきやアイリス回なんですよね。しかも、次巻予告によると次の巻はめぐみん回らしいので、ダクネスは一回休みという憂き目に……(本人は喜んでいそうですが……(^^;))

 今回カズマたちは、隣国へ赴くアイリスの護衛として一緒に旅をすることとなるわけですが、前巻ラストから考えると、ちょっと思ってたのと違うな、という展開でした。もっとカズマが無茶をするかと思ったのですが、無茶苦茶だったのはあの人というね……

 個人的には、カジノの描写はもっと欲しかったなあ、というのと、せっかくアイリスを出したのだからもっと物語に絡んでほしかったなあ、というのが残念なところ。

 アイリスに関しては物語に絡んでいないわけでもないのですが、カズマとの絡みがもっと見たかったなあ、というのが正直なところ。まあそれは、次登場する(かどうかは知りませんが)ときに期待、ということで。

 

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暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を!9~紅の宿命~』

 

  さて、今回は暁なつめこの素晴らしい世界に祝福を!9~紅の宿命~』(角川スニーカー文庫)です。

 今回はめぐみん回ということで、これまで語られることのなかっためぐみんの過去について触れた話となっております。

 なぜ彼女が爆裂魔法を使うことができるのか、なぜ彼女は爆裂魔法にこだわるのか、そういったことをはじめとして、様々な謎がここで明かされます。まあ、全体的なテイストはギャグ寄りなんですけどね。そして、そここそが今回の見どころでもあるわけですが。

 ともすれば重い話になりそうなめぐみんの過去の話なのですが、全体のテイストをギャグに寄せることで、それをうまく緩和しています。このエピソードをただ文章にしただけでは、作品のテイストに合わないように思うので、ここは非常によかったなあ、と。

 そして……

 

 めぐみんルート突入!

 ……と言いたいのですが、どうなのかな。まだ完全に入ってないのかなあ。もう、わけがわからないよ

 まあ、僕の感想はさておくとしても、ここまで読んでから改めて5巻からここまでを読み返すと、いいですねえ。最高ですよ、あなた。

 というわけで、ここまで本作を読んできた僕も、また五巻あたりから読み返そうと思います。

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