西澤保彦『赤い糸の呻き』
というわけで今回は、西澤保彦『赤い糸の呻き』(創元推理文庫)です。
初西澤なのですが、はてさて――
・『お弁当ぐるぐる』
これは正直に言っていまいちでした。
犯人当ての形式がとられていますが、これ、当たらないでしょ。結末は意外で面白いと思うんですが、犯人当てとしてはそこまで、という感じ。
・『墓標の庭』
結構好きです。なぜならメガネ以下略。
そんな冗談はさておくとして、展開の妙(妙なところはほかにもありますが)が冴えた短編だな、と思いました。
・『鴨はネギと鍋の中』
これも好みですね。
内容もさることながら、個人的に特筆したいのが、事件発生までの甘酸っぱさです。ここが良質であるがゆえに、後半との対比がとてもうまくいっていると思うのです。
・『対の住処』
収録作ではこれが一番好みでした。
物語にちりばめられた情報が機能的に収束していき、最後に語られる意外な動機につながっていく様は、読んでいて気持ちがよかったです。
・『赤い糸の呻き』
表題作にして、中編レベルの長さを誇ります。エレベーター内で起こった殺人事件、という条件だけでもワクワクしますが、そこからの話の展開が圧巻ですね。まさかこんな展開をするとは……
という感じです。初西澤でしたが、楽しむことができました。
全体的にアベレージが高い短編集で、一番最初の『お弁当ぐるぐる』こそ個人的には肌に合わなかったものの、全般的に好みの作品が多かったですね。
全編に共通してみられるのは、普遍的(と言っていいかわかりませんが、日常的な、と言い換えてもいいかもしれません)なことを丁寧に描くことによって、のちに語られる事実の特殊性を際立たせている、という点が挙げられるかと思います。そういう書き方をすることによって、その特殊性が強く印象に残るわけですが、これを達成するには普遍的な感覚と、それを描写する筆力が要求されます。本作はそれを絶妙なバランスで成り立たせていると言えるでしょう。
僕のように、「西澤保彦っていう作家が気になってるけど、どれから読めばいいかわからないよ……」という人にうってつけの一冊です。