大岡昇平『事件』
つい先日(11月の終わりだったと思います)創元推理文庫から復刊され、もとより気になっていたので購入……したのではなく、ちょっと前に買って積んでありました。
で、復刊されたということもあって読んでみた次第。
結果……なんでこの本積んでたんやろ。もっと早く読めよ自分。
一見単純そうに見えた殺人事件の裁判。しかし蓋を開けてみれば事態は思わぬ方向に転がっていき……というのが主な流れになるわけですが、ともすれば地味にも感じるこの物語を(事実として派手さには欠けますが)、そういう物語に息づくようなリアルを組み込むことによって、ここまでのものを作り上げるとは……素直にシャッポを脱ぎます。
本作の魅力はなんといっても、その豊富な法廷の知識をいかんなく盛り込んだ法廷シーンで、静かな戦いを質実な筆致で見事に描いています。作者の大岡昇平さんは元新聞記者だそうですが、文章は余計な装飾あなく、まさに実用的な文章といった感じでした。
今回の復刊で入手しやすくなったことですし、ぜひとも読んでほしい一冊。