浅ノ宮遼『片翼の折鶴』
私たちは消去法で疾患を断定することはできません。なぜなら、私たちの医学知識は完全ではないから。
というわけで今回は、浅ノ宮遼『片翼の折鶴』(東京創元社ミステリフロンティア)です。
本作は連作短編集になりますので、個別に感想を述べていきたいと思います。
・『血の行方』
原因不明の貧血に悩まされる男は、かつで自分で血を抜いていた男で……という話。
医療ミステリに関しては、読み進めつつ謎を解明することを基本的には諦めてるんですが、今回はそういう典型みたいな話でした。面白いんだけど知識的なものが不可欠、という感じ。
思うに、日常の謎(と本作を表現していいかはわかりませんが)は誰にでも解けるようなものが良質といえるのではないかと。
・『幻覚パズル』
タイトル通り、まさにパズラー的な作品。この次の作品『消えた脳病変』のエクスキューズになるような話題も出ていて、そういう点でも優秀だったかと。
・『消えた脳病変』
まず前提として、面白かったです。
しかし読み進めていきつつ、『結末がこうじゃなかったらいいなあ』と思っていたそのままの結末だったので、それはちょっと残念。
ただ、解答に至るためのヒントが絶妙にちりばめられ、しっかりと伏線も貼られていて、状況を一変させる仕掛けもあり、とミステリの基本をしっかり押さえた良作だったと思います。
・『開眼』
しっかりと結末に至るのは困難ですが、「だいたいこんな感じだな」と理解するのはそれほど難しくないかと思います。ただ、ある可能性が解決変までに明確に否定できるように書いてあればもっとよかったかな。
・『片翼の折鶴』
表題作にして、異色作。
いわゆる倒叙ものということになるのかな。ただ、『古畑任三郎』に代表される倒叙ものは最初に犯行の様子が描写され、そこから探偵役の視点に切り替わるのが通常であるように思うのですが(それほど数を読んでいないので確かなことは言えませんが)、本作はずっと犯人の視点です。こういう作品は、記憶にある限りでは『金田一少年の事件簿』の短編で、レストランだかなんだかに金田一と剣持警部がやってくる話(『殺人レストラン』という作品らしいです)がパッと思い浮かびましたが、ほかにちょっと思い出せないですね。
という感じ。医療ものというのは昔からありますが(古くは渡辺淳一さんでしょうか)、ここ最近は医療ミステリというジャンルが確立されたようにも思います。
本作は《ソリッドな医療ミステリ》と銘打たれていますが、僕は今一つその感じがよくわからない(そもそも、ソリッドという言葉をどうとらえていいものかもよくわからないのです(^^;))ので、そこについて言及はしませんが、本作はとても楽しんで読むことができました。特に表題作はミステリとしてだけでなく、医療ものとしても良作であるように思います。