メガネストの読書日記

眼鏡好きのメガネストが、読書日記をつける

ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』

 

青鉛筆の女 (創元推理文庫)

青鉛筆の女 (創元推理文庫)

 

  今回はゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』(創元推理文庫です。

 本邦初訳、ということで発売日に買って、ちょっと寝かせて楽しみにしていました(買った本を寝かせる癖があるのです)。

 帯には『三重構造の脅威のミステリ』という惹句が書かれているんですが、この帯がまずうまいですね。読む前と読み終わったあとでは、この惹句の捉えかたが大きく変わってきます

 タイトルの『青鉛筆の女』についてですが、海外では校正作業に青鉛筆を使用するのだそうです(このあたりの話は解説に詳しいので割愛します)。個人的には、その単語をタイトルに持ってきたことに注目したいですね。

 ポリコレ思想が云々、というのは様々な感想サイトで論じられているので、あえて違う角度から攻めたいと思います。

 本作は、①ある作品が存在し→②それに編集者が修正を指示して→③修正された物語が展開される、という形をとっています。この②にあたる部分がタイトルにもある『青鉛筆』であり、それは作品の方向性に大きな影響を与える、神様のような存在であるということができるかもしれません。

 また、②で青鉛筆の介入があって、物語が変更されるわけですが、③に至っても影響を及ぼされていない者も存在します。それがいわゆる作者の魂ともいえる存在で、いかな神様といえど、そこは触れることができない、ということなのでしょう。

 本作の魅力はまさにその部分にあり、諸般の事情で変更を余儀なくされた物語の中にも、作者は不滅の魂を忍び込ませることができるのだ、という叫びであるようにも思えます。

 扱っている時代とテーマのせいでかなり人を選ぶ作品だと思いますが、そのテーマなくして成立しえなかった作品である、と言える作品でした。傑作です。