大倉崇裕『凍雨』
追う者、迎え撃つ者、そして巻きこまれる者。三様の運命が山という場所で交差する。
というわけで今回は、大倉崇裕『凍雨』(徳間文庫)です。
えーと、これはなんで買ったんだったか……ああそうだ。同じ作者の『聖域』(創元推理文庫)が面白かったからだ。こちらの感想もそのうちに。
で、いつだったか(多分二、三か月前だと思いますけど)に古本屋に置いてあるのを見て、買ったのでした。
作者の大倉崇裕さんは檀れいさん主演で《福家警部補》シリーズがドラマ化されて一躍有名になった感がありますが、個人的には山岳ミステリの人、といった印象があります。多分、最初に『聖域』を読んだせいかと思いますが。
それでは、感想。
「あれ?深町秋生の小説と間違ったかな?」
読み始めてから二十ページほどで、そう思って作者名を確認したのですが、そこには《大倉崇裕》の文字。うん、間違えてないね。
深町秋生さんといえばノワール小説、という印象で、実際そんなジャンルばかり書かれているようにも思います。本作は、そんな深町秋生ばりのノワールな展開(といっても、本家よりも随分マイルドな感じです毛で)で幕を開けます。
夫の命日に、夫の命を奪った山へと訪れた真弓と、その娘の佳子。深江は二人を守ることができるのか――
というところが本作のお話になってくるわけですが、個人的には、もっと山感が出ていてもよかったかなあ、と感じました。
せっかく舞台を閉山後の山という特殊な場所に設定したのだから、それをもっと読者に意識させてほしい気もします。
ノワール小説としてはよかったかと思います。描写的には比較的マイルドなものになっていますが、独特の緊迫感と、極限状況、そして爽快感のあるラストと、ノワール小説らしさをしっかりと押さえています。そう考えると本作は、山岳小説という側面はあくまでも味付け程度で、ノワール小説として楽しむのがいいのかな、と思いました。
ただ、やや場面転換がわかりにくいかな、と感じました。
メインになる人間が複数いる関係上、視点の転換が頻繁に起こるのですが、これが結構わかりにくい。
もちろん、普通に読んでいれば「あ、ここで視点が変わったな」とわかるのですが、もう少しわかりやすくしてくれてもいいのよ? と思わなくもなかったり。
少し変わったノワール小説が読みたいあなた、この本お薦めですよ!