メガネストの読書日記

眼鏡好きのメガネストが、読書日記をつける

甲賀三郎『蟇屋敷の殺人』

 

蟇屋敷の殺人 (河出文庫)

蟇屋敷の殺人 (河出文庫)

 

 というわけで今回は、甲賀三郎『蟇屋敷の殺人』(河出文庫です。

点数:8/10点

 

 本作はKAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズと銘打たれ、昭和の古き良きミステリを発掘していこう、という名目で刊行された一冊になります。

 

 タイトルを見て「おっ、館もののミステリかな」と思った人(僕ですが)もいるかもしれませんが、本作はどちらかといえば蟇屋敷にまつわる事件、といった感じで、館ものと聞いてイメージするものとは少し違っているかな、という印象です。

 しかしながら、冒頭から首なし死体が登場したり、登場人物が終始思わせぶりな言動を見せたり、ちょっとしたロマンス(多分死語だと思うんですが、あえてこう言いたいですね)があったりと、物語を楽しくさせる要素が盛りだくさんとなっております。そういう意味ではどちらかといえば、エンタメ小説に雰囲気が近いかな。

 トリックはまあ、うん……って感じなんですが、それを装飾している要素が魅力的であり、むしろそちらを読ませるタイプの作品なので、それほど気にすることもないかな、と思います。提示された魅力的な謎、怪奇小説的な雰囲気、ちょっとしたロマンス……そういうものを楽しむための小説なのかな、と個人的には感じました。

 

 本作は1950年に初めて刊行され、この度初めて文庫化されたわけなんですが、こういう作品が半世紀以上も前に書かれていた、というのは控えめに言って驚嘆に値しますね。これだけたくさんの娯楽があふれている中で読んでもそのエンタメ性はまったく損なわれることはなく、それはきっと、これからも変わることはないのだろうと感じさせられます。末永く読まれてほしい作品、というのはこういうもののことを言うのだろうな、と思った次第。