米澤穂信『王とサーカス』
わたしが知りたいから、この真実を追うのだ。たとえ、どんなに疎まれようと蔑まれようと。
というわけで今回は、米澤穂信『王とサーカス』(東京創元社)です。
本書は『さよなら妖精』(創元推理文庫)に登場した大刀洗万智を主人公とした《ベルーフ》シリーズの長編となっております。本シリーズはほかに『真実の10メートル手前』(東京創元社)という短編集が発売されております。
本書が発売されると聞いたとき率直に、「なんで大刀洗が主人公?」と首をひねったものです。というのも『さよなら妖精』のときにはこのキャラクターにそれほど強烈な印象はなく、こういった形での再登場を、可能性すら考慮していなかったのです。それがこういう形で再登場し、こんな物語に関わるとは……
それはまあさておくとして、感想です。
面白かった。文句なしに。
異国が舞台になっている物語、というのがそもそも僕の好みではあるのですが、それを考慮せずとも圧倒的に面白かったです。
前作の『満願』(新潮社)でミステリランキング三冠を獲得し、満を持して発売された本作ですが、本作もまたミステリランキング三冠を獲得しております。評価されるものにはされるだけの理由があるわけで。
いろいろなところで読んだ本作の紹介では、ネパールの王族が暗殺されたことがピックアップされがちだった印象です(舞台が2001年のネパールである以上、そのことに触れずに終わることはできないと思います)が、実際のところ、本筋はまったく別です。王族の暗殺はどちらかといえば舞台を補強するような役割かな、と思いました。
ミステリの部分もいいのですが、なによりも注目したいのが、主人公の万智の成長(あるいは、変化)です。
❝タチアライ、お前は何者だ?❞
❝お前の信念の中身はなんだ❞
作中で万智がある人物に投げかけられる問いですが、これがこの作品の根底に深く横たわっていると思うのです。作中では万智が記者としての在り方を見つめることになりますが、これって結局僕たち読者にも投げかけられている問いかけなわけで。
自分は何者なのか?
信念はあるか?
その信念の正体は?
これって結構目を背けがちだけれど、常に付きまとってくる命題なんじゃないかな、と思います。『何者か』になる必要はなくとも、『自分の正体はなんなのか』くらいは自覚しておいてもいいんじゃないかなあ、と。
ともあれ、色々考えずとも圧倒的な傑作には変わりありません。読んで損はない一冊。