河野裕『最良の嘘の最後のひと言』
オレはある少女に会わなければならないんだ。
ということで今回は、河野裕『最良の嘘の最後のひと言』(創元推理文庫)です。
作者の河野裕といえば『サクラダリセット』シリーズ (角川文庫)や《階段島》シリーズ(新潮文庫nex)で見せた、青春と非日常の融合という作風が印象的ですが、今回もその色は踏襲しつつ、よりエンタメ色を強めた、ある意味では新境地ともいえる作品でした。
世界的企業《ハルウィン》が『四月一日に年俸八千万円の終身雇用で超能力者一人を採用する』という告知を出したところ、その前日の三月三一日に行われる最終試験に、七人の男女が姿を現した。
彼らはたった一通の採用通知書をめぐり、争いを繰り広げるが――
というのが、本作のざっくりとした内容になるでしょうか。
基本的にはライトな超能力バトルものとして読んでいけばいいのですが、複雑に絡まり合った登場人物の思惑や、緻密に組まれたロジカルが物語に深みを生んでいます。
個人的には主人公の参加の動機が少し薄いように思えたので、そのあたりをもう少し掘り下げてほしかったなー、という気はします。
全体的にテンポが速く、息をつく間もなく物語が展開していくのは個人的に好感が持てます。しかしその反面で、主人公をはじめとしたキャラクターをもう少し深く掘り下げてもよかったようにも思います。ただそれをしてしまうと、本作の売りであるスピード感が損なわれてしまう恐れもあるため、もしかしたらこの形が最良なのかもしれません。
僕は河野裕の他作品を読んでいませんが、とりあえずほかの作品も手に取ってみようかな、と思いました。