上田早夕里『華竜の宮』
三冊目は上田早夕里『華竜の宮』です。
本作は短編集『魚舟・獣舟』(光文社文庫)に所収されている『魚舟・獣舟』という作品の世界観を継承した、一大抒情詩ともいえる作品で、上下巻合わせて1000ページほどにもなる大長編です。
海面が上昇して、陸地のほとんどが海に沈んだ地球を舞台にした硬派なSFで、とにかく圧倒的なスケールに驚かされます。
僕が上田早夕里という作家を知ったのは偶然で、たまたま本屋で『リリエンタールの末裔』(ハヤカワ文庫JA)を手に取ったのがきっかけでした。今にして思えばあのとき手に取っておいて本当によかった。サンキューあの日の自分!
……それはともかくとして、本作の話を少し。
本作を一言で表現するなら、海洋ロマン+ハードSFといった風情で、なんというかこう、男子心を思い切りくすぐってくる作品です。また、作者の文章がSF畑の人にしては柔らかいので、この手のジャンルになじみのない人でもぐいぐいと読み進められるのではないかと思います。ちょっと分量があるところを除けば、色々な人に積極的に薦めていきたい作品です。
……ただ、この作品、実はここで終わりではないのです。続編として『深紅の碑文』(ハヤカワ文庫JA)という上下巻構成の作品があり、そちらも本作と同じくらいのボリュームがあるのです(^^;)。ただ、長さに見合うだけの満足感があるのは保証します。
完全に余談なんですが、本作を読みながら「ハリウッドで映画にならないかなあ」とずっと考えていました。この世界観とスケールは、ハリウッド映画にこそふさわしいのではないかと思います。