綾辻行人『どんどん橋、落ちた』
読者(あなた)に挑戦する、五つの謎
というわけで今回は、綾辻行人『どんどん橋、落ちた』(講談社文庫)です。
初綾辻……じゃないですね。以前『Another』 (角川文庫)を読んでいました。本作で二冊目、ということになるかと思います(記憶違いがあるかもしれませんが……(^^;))。
本作のタイトルはまあ、この歌
♬ロンドン橋/London Bridge Is Falling Down【英語のうた/English song】
のもじりなんですけれど、僕の世代だともう、この歌ってあんまりなじみがないんですよね。まあでも、『橋が落ちる』といえばまずこの歌が思い浮かぶかなあ、とは思います(そんな物騒な歌、そうそうないと思いますが……)。
ともあれ、感想に行きたいと思います。本作は連作短編集になりますので、感想は個別に。
・『どんどん橋、落ちた』
表題作ですね。面白かったですが、犯人当てが当たらなかったのが残念。
作中で色々言っていますが、個人的にはぎりぎりアンフェアかな、と思います。というか、僕がこの可能性を除外した要素がある場所に書かれていたのです。これがなければフェアかな、とも思うのですが……
・『ぼうぼう森、燃えた』
タイトルからもわかる通り、『どんどん橋、落ちた』の亜種ともいえる作品で、冒頭の注意書きに従って順番に読んでいれば、おそらく本作の犯人当ては難しくないでしょう。僕も犯人はわかりました。
犯人当てかくあるべし(異論はあると思いますが……)という感じの構成で、個人的には楽しめました。
・『フェラーリは見ていた』
この短編集の中では、ちょっと異色な話。っていうか、犯人当てじゃないですよね。犯人当てというシステムを利用して、そういう遊びを皮肉っている内容は、ちょっとおもしろかったです。
ただまあ、タイトルはなにか別のもののほうがいいようにも思いますが……
・『伊園家の崩壊』
登場人物名でニヤニヤする話(というか、本作に所収されている作品はそんなのばかりですが、これはその最たるものかと)。
これも僕は途中で犯人に気付いたのですが、なんというかこう、論理的に考えていけばしっかりと解答にたどり着くことのできる仕様はやっぱりいいですね。
・『意外な犯人』
これ、刊行当時に読みたかったなあ……
というのも、僕は作中で使用されているギミックを以前に読んでいる (ネタバレになるので覚悟してリンクを踏んでください)ので、それを知らないままに読みたかったなあ、と。
しかしながら、犯人当てとして提示された条件のおかげで、謎解き自体は楽しんだので、そこはさしたる問題でもないのかな、とも思います。結局のところこの作品は犯人当てで、犯人を当てるためだけにすべての要素が存在しているのですから。
という感じ。
もちろん、犯人当てというジャンル自体は知っていたわけですが、実のところちゃんと触れるのはこれが初めてだったりします。そして、最初に触れた犯人当てがこの作品でよかった、とも感じました。
読んでいて感じたのは、この形式はメタ的な発言と非常に相性がいいのだなあ、ということです。というか、この形式だとメタ発言も当たり前に受け入れられるというか……不思議なものです。
メタ発言の一例
たとえばこの本で綾辻行人デビューをする、という方にはぜひとも一度手を止めていただいて、ほかの作品に触れてから読んでいただきたいと思うのですが、こういう変化球的な作品もたまにはいいと思うのです。