詠坂雄二『インサート・コイン(ズ)』
リロ・グラ・シスタ: the little glass sister (光文社文庫)
- 作者: 詠坂雄二
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/12/05
- メディア: 文庫
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ハイスコアガール(1) (ビッグガンガンコミックススーパー)
- 作者: 押切蓮介
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2012/02/25
- メディア: コミック
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誰だって、一枚はコインを持っている
というわけで今回は詠坂雄二『インサート・コイン(ズ)』(光文社文庫)です。
ブログ的には初顔ですが、僕個人としてはデビュー作の『リロ・グラ・シスタ the little glass sister』(光文社文庫)から読み続けている作家で、割と馴染みのある作家だったりします。
本作はライターの柵馬朋康を主人公とした連作短編集で、懐かしいゲームがそれぞれの話の題材となっています。僕よりもちょっと上の世代のおじさんホイホイなテーマですな。僕もホイホイされましたけど。
そんなわけで、各作品について、個別に感想を書いていこうかと思います。
・『穴へはキノコをおいかけて』
タイトルはあるあるですね。スーパーマリオあるある。これと『スーパーマリオブラザーズ2』の毒キノコは、二大あるあるかな、と。
かくいう僕もやったことがあります。1UPキノコをおいかけて。1UPキノコが出てきた時点で一機増えたつもりでいるので、実質的に一気に二機失ったような喪失感が……
ともあれ内容。冒頭の作品ということもあって、やや印象が薄い気がします。作中で語られる《マリオのジャンプ》についての考察は、なかなか面白かったように思いますが、肝心の謎がちょっとわかりやすすぎるかな、と。
・『残響ばよえ~ん』
ぷよぷよが題材の本作。タイトルはゲームに出てくる呪文で、五連鎖(『ぷよぷよ通』以降は七連鎖)以上すると、この呪文を聞くことができます。
一読して思い出したのは、押切蓮介『ハイスコアガール』(ビッグガンガンコミックス)でした。ゲームが題材で、こういう話となると、どうしても思い出してしまうでしょう。
こちらも謎自体はあっさりとしたもの。最初のコラムの部分を読んだだけで「これはそういうことなんだな」と僕でもわかりました。
ただし、ここで重要なのは謎の部分ではなく(これは全作品に言えることかもしれませんが)、そこから柵馬がなにを得たのか、という点にあると思います。そういう意味ではミステリというよりも、『青春』ミステリというジャンルがよく似合うかもしれません。
・『俺より強いヤツ』
『ストリートファイターⅡ』を題材にしたお話。タイトルはゲームのキャッチコピーだったと思います。
個人的には一番残念だった話。途中まで面白く読んでいたのですが、個人的には結末に納得することができませんでした。登場人物の言い分はまあわかるにしても、作中のようなことが起こるかといわれれば起こらないんじゃないかなあ、と。
僕としては、物語が必ずしもリアリティを伴っていなければならないとは思いませんが、この世界観でここまで逸脱してしまうと、違和感が大きくなってしまいます。これなら××(作中のある人物の名前が入るんですが、ネタバレになりそうなので伏字にします)が無意識のうちに全員を××して、その後××したと言うほうがまだ納得がいく気がします。それでも「おいおい」と思いますが。
・『インサート・コイン(ズ)』
表題作ですね。それだけに、出来もよかったです。
この作品、どうやら雑誌に掲載されたらしいのですが、単独で読むと面白さは半減するんじゃないかなあ、と思います。この作品に関しては、最初から読み進めていって、ここでしっかり結ぶ、みたいな役割を持っているように思うので、本来は書き下ろしとかで付け加えられるタイプの作品だよなあ、と感じました。
・『そしてまわりこまれなかった』
おまけ、というかボーナストラック的なお話。掲載されたのはこれが最初ですが、時系列的には一番最後になるのかな。
『ドラクエ』でおなじみの『ドラゴンクエスト』シリーズが題材になっております。ゲーム好きな男子は、みんな好きなんじゃないですかね。僕も好きです。
ドラクエⅢに隠された最大の伏線、という最初に提示される謎については、まあよく読めば察しが付くように思います。僕も読んでる最中に気付きました。
重要なのはそこから浮かび上がってくる物語ですね、やはり。あらゆる意味でラストを飾るにふさわしい作品だと感じました。
というわけで、それぞれの作品について感想を書きましたが、総括すると本作は青春ミステリではなく、『青春』ミステリであるということができるかと思います。
『残響ばよえ~ん』の感想でも触れましたが、本作は物語に横たわる謎よりも、それによって浮かび上がってくる物語に重点が置かれているように思います。どの作品でもそのスタイルが徹底されていることから、意図的なものでしょう。ミステリとして読むよりも、青春小説として読むのが本書の正しい楽しみ方のような気がします。
ところで、本作を青春ミステリというのに抵抗がある人がいるかと思います。実際、
「二十代後半って青春時代じゃなくね?」
と僕も思いました。しかし、違いますね。『青春』という言葉がかかっているのは、主人公の柵馬ではないわけです。
平成も三十年近く過ぎた現在から見ればずいぶん遠い過去となった、作品の題材となったゲーム達。それこそが柵馬の、あるいは僕たちの青春であるということなんじゃないかと思います。ゲームという媒体を装置にして青春を描くという手法は面白く、二度と戻ってこないあの時代を描くのにうってつけの材料であると、僕は感じました。同年代の人に広くオススメな一冊