大山誠一郎『密室蒐集家』
密室蒐集家と申します
ということで今回は、大山誠一郎『密室蒐集家』(文春文庫)です。
本作は連作短編集となりますので、とりあえず個別に感想をば。
・『柳の園~一九三七年~』
非常にクラシカルな密室ものですね。
時代背景にしては千鶴がやや現代的すぎる気もしないでもないのですが、そこはまあ、ご愛敬。
基本的にはロジカルでとても楽しめたのですが、ちょっと読者にヒントを与えすぎかな、という気がします。ここまで親切じゃなくてもいいかな。
・『少年と少女の密室~一九五三年~』
本書で一番の問題作だと、個人的には思うのです。
これを密室ものと呼ぶかどうか、そもそもそこで意見が分かれそうなところを持ってきて、事件の成立が偶然に頼り過ぎている点が、個人的には大きくマイナスかなあ、と思います。解決が偶然性の高い展開になっているのは、まあ密室蒐集家のキャラクター上別に構わないかな、という気がしますが。
・『死者はなぜ落ちる~一九六五年~』
これもちょっと、うーん、という感じ。
そもそも、死体に関するある矛盾がこの結末に向かうために用意されたように感じる、という時点で個人的にはちょっとどうかと思うわけですが、これも様々な偶然によって事件が成立しているのがよろしくない。
・『理由ありの密室~一九八五年~』
この短編集の中で一つ挙げるとすれば、この話かな、という気がします。
本編からややずれますが、密室を作る八つの理由はなかなか興味深い話でした。それに付随する九番目の理由で一つ話が書けそうなのに、なぜそうしなかったのだろう、というのは素朴な疑問ではありますが。
この話だけ倒叙もののようになっているのも、目先が変わるという意味ではよかったように思います。
ただ、鍵を飲み込んだ理由に関してはまったく納得いってません。
・『佳也子の屋根に雪降り積む~二〇〇一年~』
これもなかなか。
ここまでの四編は割と読者に親切なつくりになっていたのですが、これはややアンフェアな気がしないでもないです。
逆説的に見ていけばちゃんと話がつながっているのですが、普通に読んでいる段階ではほとんど真相に到達できそうな要素がないのが気がかり。犯人を決め打ちしていけばあるいは……という気がしないでもないですが。
という感じ。
まず断っておきますけれど、基本的にはクオリティが高く、非常にロジカルな作品集だったと言えると思います。だからこそ、ややロジックに頼り過ぎた面があるようにも感じられるのも事実で、それが作品のクオリティにわずかな瑕疵を生んでいるようにも見受けられます。
本作には五つの話が収録されていて、五つの密室が登場しますが、それぞれが違った必然性を孕んでいて非常にバラエティに富んだ作品群となっていると感じました。まさに密室蒐集家の面目躍如といったところ。
本書は年代順に話が所収されていますが、密室蒐集家というキャラクターの特性上、そこはあえて年代順にする必要がなかったのでは、と思います。一九八五年の事件には密室を作る八つの理由が語られる部分がありますが、これは一番最初に知っておきたかったところ。そういう微妙な部分がもったいないな、と思います。
とはいえ、短編一つ一つのクオリティは高かったので、読んで損はしないと思います。