連城三紀彦『戻り川心中』
花のように、美しく儚い五つの物語
というわけで今回は、連城三紀彦『戻り川心中』(光文社文庫)です。
実は初連城というね……
今まで読まなかった理由は特にないのですが、ここらで読んでおきたいな、と思い自室の本棚を捜してみたのですが、この本を買ってなかったんですね、僕。読むならばこの本から、と決めていたので、慌てて買いに走った次第。
そんなわけで感想に移ろうと思いますが、本作は短編集となっておりますので、感想は個別にいきたいと思います。
・『藤の香』
よかったですね、これ。僕はすごく好みでした。ミステリというよりは人の情念を描いた話、といった風情で、連城のエレガントな文体にとてもよく合っていたと思います。
・『桔梗の宿』
これも素敵な短編でした。今年一番好きだった短編かもしれません。
物語がだいたい、読者の想像通りに進んでいくことかと思いますが、ラストシーンは胸を打たれました。また、今回モチーフに使われている花は桔梗ですが、この花の物語でなければ、あのラストには到達しえなかったでしょう。
・『桐の柩』
これもよかった。というか、この短編集に面白くない話などないのですが。
『桔梗の宿』とは対照的に、ラストシーンはあまり納得のいく感じではなかったです。まあでも、この主人公はこうなっていいとも思うので、これでよかったのかな、と感じます。
・『白蓮の寺』
ちょっとだけ、ニューロティック・スリラーの香りを感じる短編。
全然スリラーではないのですが、霞がかった自分の過去の記憶をたどっていく手法が、この話にとてもマッチしているように思います。
中心に据えられたギミックには、割と早い段階で気付けたのですが、思うにミステリというものは、そういう気付きに負けない物語力を持っているべきではないでしょうか。そういう意味で本作は良質のミステリといえるかと思います。
・『戻り川心中』
表題作にして、圧倒的な傑作。
この作品については、誰かがなにかを語るよりも直接感じ取っていただきたいように思います。ある人物の強烈な感情が、連城の文体に載せられてここまで到達するというのは、まさに感服の一言。素敵な読書でした。
という感じ。本書に収められている五編は《花葬》シリーズと呼ばれるうちの五つで、どれもが逸品ぞろいです。こういう短編集がほとんどワンコインで読める(税抜き533円)というのはうれしい限りですね。しかも、定期的に復刊されるから入手しやすいし。
文体がエレガントで、入り口で敬遠しがちな人は多いかと思いますが、そこを恐れず入っていくと、素晴らしい読書が我々を待っています。読んで損はしません。おすすめです。