清水潔『殺人犯はそこにいる~隠蔽された北関東連続幼女誘拐事件~』
一番小さな声を聞け
ということで今回は、清水潔『殺人犯はそこにいる~隠蔽された北関東連続幼女誘拐事件~』(新潮文庫)です。
もう解禁になったので書いてしまいますが話題になった『文庫X』の中身が本書となっております。
謎の本「文庫X」ヒット=カバーで書名隠し販売-9日タイトル公表・盛岡の書店
盛岡の書店から生まれた『文庫X』という企画がここまで大きくなるとは、おそらく仕掛け人の書店員さんも思ってはいなかったことでしょう。しかしながらこの試みは異例の広がりを見せ、このようにニュースサイトで取り上げられるほどにまでなりました。おそらくは二度と使えないであろうこの方法を用いてまで、一人の書店員が届けたかった本が、こちらになります。
僕はタイトル公表の前日に駆け込みで買ってきたのですが、一気に読んでしまいました。分量としては多く、また馴染みのないノンフィクションというジャンルの読みものでしたが、これについては感想を書かねばならないでしょう。
というわけで、感想。
報道、あるいはジャーナリズムかくあるべし、という内容ですね。
事件に関係する一番小さな声を聞き、報道マンとしてどうあるべきか、この事件の到達点はどこにあるのか。伝えるためには傷に触れなければならないというジャーナリストならではの苦悩が本書の全体からにじみ出ているようにも感じられました。昨今、インターネットの発達によっていわゆる一般市民でも様々な情報に触れることができるようになったことによって、テレビや新聞と言ったメディアの在り方が問われるような時代になりましたが、こういう報道ができるメディアが増えてくればその論争にも決着がつくことでしょう(僕個人の所感としては、そうできているメディアは圧倒的少数であるとは思いますが)。
本書の意義としては、タイトルにすべて収束されるのでしょうけれど、僕が注目したいのは、この事件は氷山の一角にしか過ぎないという点です。
未解決事件というものがどの程度あるのか僕は寡聞にして知りませんが、本書で取り上げられている《北関東連続幼女誘拐事件》のように、『闇に葬られてしまった』(あるいは、そうなりつつある)事件が、僕たちの気付いていないところにたくさんあるのではないか、そして、その犯人たちはすぐそばにいるかもしれない。そういうことを念頭に置いて本書を読み進めてほしいのです。
本書は『文庫X』として売り出されなければ、ここまで多くの人の手に渡ることはなかったように思います。おそらくは僕も、手に取ることはなかったでしょう。そういう意味でこういう出会いというのは大切にしたいと思いますし、この『文庫X』という企画はAmazonを筆頭としたネット書店にはない、リアル書店の存在意義と情熱を感じさせるものだったのではないかと思います。