絲山秋子『忘れられたワルツ』
というわけで今回は、絲山秋子『忘れられたワルツ』(河出文庫)です。
点数:8/10点
好きなんですよね、絲山秋子。僕にしては珍しく、著作はほぼ持っているのではないでしょうか(読んでいるとは言ってない)。
今回は短編集なので、それぞれ感想を書いていこうと思います。
・『恋愛雑用論』
冒頭の一文が、けだし名言と思います。そうだよなあ、恋愛は雑用なんだよ。
・『強震モニタ走馬燈』
こういう雰囲気は、なんとなくあの日以来誰の心にもあるのかな、と思います。あの日はそれだけ鮮烈で、衝撃的でした。
・『葬式とオーロラ』
これ、いいですねえ。どこか幻想的で、それでいて妙に地に足の着いたような……作者らしい短編だと思います。
・『ニイタカヤマノボレ』
この短編集ではこれが一番好みでした。『海の仙人』(大好き)を思わせるガジェット群、登場する人物たち、どれをとっても好みでした。
・『NR』
都市伝説の『きさらぎ駅』を思い起こさせる、不可思議な短編ですが、僕はとても好きですね。絲山流都市伝説といった風情。
・『忘れられたワルツ』
表題作ですが、なにこれ……こわい。
一日一編ずつ読んでいたのでこのラストにとても驚いたのですが、この前にある『NR』が一応ワンクッションになっているんですね。
改めて読んでみると、恐ろしさよりも悲しさや切なさがずっと胸に残る気がします。
・『神と増田喜十郎』
ラスト。それだけに読後感はいいですね。『逃亡くそたわけ』を思い出します。
という感じ。
本作はつい先ごろ七年前の出来事となった、東日本大震災の前後に発表された作品をまとめた短編集になります。作中にもそれを想起させる『あの日』という表現が出てきていて、それぞれの登場人物が『あの日』と、『あの日』以降について考えるような内容になっています。
たった一つのテーマからこれだけ多様な作品を生み出す創造性は見事の一言で、とりあえず絲山秋子を読みたい、という人には本書を手に取ってもらいたいですね。絶対に好みの作品が見つかるはず(底抜けに楽しい作品が読みたい、という人は別ですが、そもそもそういう人には本書を薦めません)。