陳舜臣『怒りの菩薩』
点数:9/10点
陳舜臣の初手は、この本にしようと決めていました。いやー、噂にたがわぬ傑作でしたね。
本作は第二次世界大戦直後の台湾を舞台としたミステリで、まず特筆すべきなのは、終戦直後の台湾の空気感でしょう。
もちろん僕は当時の台湾を直接見たわけではないのですが、本作の描写は精緻で息づくような方法が採られています。そういう筆力が本作をどっしりと支えていると言っていいでしょう。
また、本作に登場する三人の探偵役が動機、アリバイ、トリックの三方向から、不確定ながらも犯人を指摘して、それらを総合すると犯人が確定される(ネタバレなので反転)という趣向は大変に魅力的で、ミステリのスタイルとしてはオーソドックスな本作を、舞台設定とともにより魅力的なものに昇華していると感じました。