井上真偽『恋と禁忌の述語論理』
凛、と風鈴が鳴った
というわけで今回は、井上真偽『恋と禁忌の述語論理』(講談社ノベルス)です。
初顔の作家です。しかし、控えめに言って最高でした。
とりあえず、本作は連作短編集なので個別に感想をば
・『スターアニスと命題論理』
論理学入門編、といったところ。知らなくても問題なく読むことができますが、理解することができればもっと面白く感じられるでしょう。
僕は読み進めている最中に違和感があって、そこでいったん冒頭まで戻って読み直してしまったのですが、多分一度最後まで読んでからまた読み返したほうがいいように思います。話自体は好みで、とてもいい導入でした。
・『クロスノットと述語論理』
読み進めつつ、「この探偵の推理にはちょっと無理があるなー」と思っていたのですが、僕には『どのように』無理があるのか説明することができませんでした。しかし、説明することができるのです。そう、述語論理ならね!
それはさておくとして、作中の三つの事件の中では、ややトーンダウンした印象ですね。もちろん、それでも十分に面白かったわけですが。
・『トリプレッツと様相論理』
やられたなあ、という印象。
実のところ、森帖くんが作中にたどり着いたところまでは僕もたどり着いていたのですが、まさかこう切り返されるとは……
それとは別に、ラストシーンのある数行は、まったく想定の外から来た仮説だったので、ちょっとガツーンとやられた気分。
・『恋と禁忌の……?』
すべての解決編です。
正直、各話に違和感があったのですが(三話目が割と決定的で、一話目もそれなりに。二話目はそんなに違和感なかったような……)、それがこういう風につながってくるのか、と。圧巻でした。
という感じ。
メフィスト賞作家をずいぶん久しぶりに読んだのですが(辻村深月以来でしょうか)、なんというか、これぞメフィスト賞、という尖り具合だったと思います。
作中に登場する数理論理学で躓く人もいるかと思うのですが、そこを理解できずともなんの問題もないと思うのです。本作はそもそも、物語として圧倒的なパワーを持っていて、その形をより尖らせているのが数理論理学という装置であるわけです。
また、物語は構造として、結末に向かっていくにつれて収束していく傾向にあると思うのですが、作中に登場する論理学は、命題→述語→様相という風によりファジーで広がりのあるものを取り扱っていくことになります。その構造上の対比も面白いな、と感じました。
なんにせよ超ド派手なデビュー作でした。一読して損はないでしょう。