泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』
亜です、希硫酸の亜
ということで今回は、泡坂妻夫『亜愛一郎の狼狽』(創元推理文庫)です。
実は読んだことがなかったので、読んでみました。連作短編集なので個別に感想を。
・『DL二号機事件』
初めまして亜愛一郎。
タイトルと内容のギャップに驚きましたが(想像してたのと全然違った)、これはこれで。やや冗長な言い回しが目につきますが、作品のいい雰囲気になっているような気もします。
・『右腕山上空』
割と好みの一作。
空を飛んでいる気球の中で、唯一の乗員が殺されていた……という話で、広い意味での密室ものかと思います。これの亜種が森博嗣の某作品になるのかな。
・『曲った部屋』
内容はともかくとして、文章でちょいちょい「ん?」と首をひねる部分があるのが残念。
ただし、伏線の張り方が好みで、最後まで読んで「ほほー」となりました。
・『掌上の黄金仮面』
この短編集の中では一番首をひねった作品。
作中のある事実に関してはまあわかるのですが、いくらなんでもこの犯行方法は……
・『G戦場の鼬』
先ほどの『曲った部屋』とは対照的に、やや話の稚拙さが目立つ気がします。作中のある重要なポイントが唐突に出てきて「おや?」と思った記憶
・『掘り出された童話』
話としては一番好きです。
基本的には亜と一荷の珍道中といった風情でコミカルに進んでいくのですが、それだけにラストの展開は鮮やかに感じられました。本書でどれか一つ挙げるとすれば、僕は迷わずこれを挙げるでしょう。
・『ホロボの神』
個人的な嗜好としては、かなり好きです。古処誠二好きな人にはぜひ読んでほしいですね。
それだけにもう少し丁寧に伏線を貼ってほしい気もしますが、この長さだとこれが精いっぱいかもしれません。
・『黒い霧』
とてもコミカルな作品で、本書の読後感をよくした要因の一つといっても過言ではないでしょう。作中はしっちゃかめっちゃかなことになっているのに、恐ろしくスマートな話に仕上がっています。さすが、と言いたいところ。
という感じ。亜愛一郎という事典の一番最初に来るであろう探偵(実際にそういう意図で名づけられたらしいですが)の初登場作品集ということで。
僕は素直に楽しみました。言い回しや表現に時代を感じるせいか、やや読むのに時間がかかりましたが、亜の行動がコミカルなおかげか、どこか軽快な話が多いのもよかったです。
本書には八つの短編が所収されていますが、そのそれぞれに技巧が凝らされていて、泡坂妻夫のエッセンスがしっかり感じられるかと思います。