はやみねかおる『ディリュージョン社の提供でお送りします』
メタブックを止めることはできない、絶対にだ。
ということで今回は、はやみねかおる『ディリュージョン社の提供でお送りします』(講談社タイガ)です。
初はやみねです。
正直、今までなんで読んでなかったのか不思議なんですが、多分あれですね。刊行されている作品が多すぎて、どれから手を付けていいのかわからなかったパターンですね。
で、今回たまたま書店に足を運んだときに見かけたこちらを一冊目として選ばせていただきました。なんか、単巻ものっぽいし、いいよね、と思って。
知り合いの方曰く『大人がはやみね始めとするにはいい一冊』とのこと。期待が高まりますねえ。
ということで感想。
面白かったです。
物語の世界を現実に体験することができる新しいエンターテインメント《メタブック》なるものが存在する世界。そんな《メタブック》を扱う企業《ディリュージョン社》が舞台となっております。
そこで働く森永美月はある老人の依頼を請けることになります。曰く『不可能犯罪を体験したい』
この難題に取り組んでいくうちに様々なトラブルが起こって……
というのが本作のあらすじになるわけですが、あらすじ自体はいたってシンプルですね。しかし、内容は素晴らしかったです。
ちょいちょい挟まれるミステリファンをニヤリとさせる小ネタ(これがわからなくても十分に面白いと思いますが、やはりわかったほうが面白いでしょう)もさることながら、ことに重要なのは主人公の美月の視点だと思うわけです。
少しネタバレになるかもしれませんが、美月はまったく本を読まないというキャラ付けがされています。これがこの作品のキャラ同士のやりとりにいいアクセントを与えていると思うのです。
彼女の呈する疑問は、言われてみれば『なるほど』と思うことばかりです。ミステリに慣れ親しんでいると忘れがちですが、たしかに探偵は妙に勿体つけたがるきらいがありますね(これは某鍵屋が出てくる作品でも言及されていましたが)。
肝心の、物語に横たわる謎のほうですが、少しシンプルだったなあ、という印象。ただ、この作品は《メタブック》を完結させるために奔走するディリュージョン社のスタッフの奮闘ぶりを楽しむのがいいようにも思うので、ここはそれくらいシンプルにしておくべきなのかもしれません。
全体としては、美月の妙な方向にポジティブなキャラクターが微妙に気になるものの、非常によい初はやみねだったなあ、という印象。
とりあえずほかの作品も見つけて買っちゃおうかなあ、と思った次第。
しかし、この刊行量……どれから手を付けたらいいんだ。