今日泊亜蘭『最終戦争/空族館』
伝説の復刻
というわけで今回は、今日泊亜蘭『最終戦争/空族館』(ちくま文庫)です。
日本のSF黎明期を支えた、伝説の著者の一人、今日泊亜蘭の作品が復刊されていました(昨年十月ごろにされていた模様)。
僕はなんとなく本屋をうろついていて発見したのですが、ちくま文庫での復刊は予想外でしたね。てっきり早川か創元のどちらかだと勝手に思い込んでいたので(『海王星から来た男』の復刊が、創元SF文庫でなされる、という情報を聞いていたからかもしれません。あれはいつ復刊するんでしょうねえ……)、ものの見事にスルーしていたわけですが、今回購入することができたので、読んでみた次第。
で、感想なんですが、やはり古さは否めないと思います。半世紀以上も前の作品ばかりなので無理からぬことかと思いますが、しかし、それでもやはり、いい。
基本的に『空飛ぶ円盤』が出てくるあたり、当時のSF感というものを端的に表している気もしますが、技巧の鋭さと着想の面白さが、それだけに際立つようにも思います。
本書に所収されているのは掌編か、やや長い短編程度の作品ばかりなのですが、そのほとんどが技巧的で、非常に面白く読み進めることができます。
しかし個人的に注目したいのは、時折混じりこむそういう技巧を用いない短編のほうです。これがまたいいんですよねえ。
特におすすめしたいのは、『カシオペヤの女』と『ロボット・ロボ子の感傷』という二編で、この作品集の中ではやや異色ともいえる作品です。
個人的にはSFというジャンルは愛という感情と非常に相性がいいと感じているので、やはりこういう作品には心動かされてしまいますね。
他には、なんといっても表題作の『空族館』でしょう。
今日泊亜蘭の未発表作品ということで期待していたのですが、これはすごくよかったと思います。SFでは割合みられる題材ではありますが、定番には定番の良さがあるということを再認識しました。
文語体なのでそういう文章が苦手な方は少し読みにくいかもしれませんが、それでも読む価値のある作品がここにはあると思います。おすすめです。