詠坂雄二『ナウ・ローディング』
ナウ・ローディング
というわけで今回は、詠坂雄二『ナウ・ローディング』(光文社文庫)です。
以前感想を書いた『インサート・コイン(ズ)』の続編となります。
続編、と言いつつも世界観を引き継いでいるだけで、前作を読んでおらずとも問題なく楽しめると思います。
本作は連作短編集となりますので、まずは個別に感想をば。
・『もう1ターンだけ』
前回の後日談的なものですが、作品のスタイルとしても前作を少し引きずっているかな、という印象。
本書は前作と比べるとミステリの色を薄めて、青春小説としての面を大きく押し出しているように思います。この作品はその過渡にあるというか、まだミステリらしい話だと思います。
・『悟りの書をめくっても』
RTA(リアル・タイム・アタックの略です)のお話。
一応ミステリの顔をしていますが、それ以上に青春小説として良質で、本書の中で一つ選ぶとしたら、僕は迷わずこれを選ぶでしょう。
・『本作の登場人物はすべて』
タイトルでピンとくる方もおられるかと思いますが、R‐18感満載の話です。苦手な人は読み飛ばしを推奨。
ただ、ラストの苦さがそこに至るまでの描写とのギャップでうまく際立っているようにも思います。万人にお勧めはできませんが、個人的にはいろいろと思うところがある作品。
・『すれ違う』
ややトーンダウンしたかな、という印象の作品。
嫌いではないのですが、最後のシーンは《よみさか》が登場しない方がよかったのではないかという気がします。青春小説としての色もやや控えめで、なんだか不思議な話。
・『ナウ・ローディング』
これを読む前に『遠海事件~佐藤誠はなぜ首を切断したのか?~』 (光文社文庫)を読んでください。読まないと意味がわからない部分が多々あります。
『遠海事件』の後日談的な話。
タイトル的にはここに納まっていることに違和感はないのですが、内容は一個もゲームに関係ないので、この作品だけ妙に浮いている感じがします。
創作とゲームというのは切っても切れない関係にあるので、ここに収録したかった気持ちはわかるのですが、このテーマで語るうえで過去作とリンクさせてしまったのはまずかったかなあ、と思います。内容的にはいろいろな人に読んでほしいものなのに、過去作に目を通すというハードルがあるのはちょっと……
という感じ。全体的なクオリティは前作のほうが高い印象ですが、どの話にもはっとさせられる部分があり、そういうところが今回のスタイルゆえなのかな、とも思います。
青春小説に寄せたことによって、物語が読者の近くまでやって来て、そのおかげで伝えたいことがまっすぐに伝わるというか、物語に含まれた苦みが、過ぎ去ってしまった青春時代とうまくマッチしています。
なかでも『悟りの書をめくっても』はかなりいい出来で、色々な人に読んでほしい作品です。