ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』
- 作者: ローリー・リンドラモンド,Laurie Lynn Drummound,駒月雅子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/03
- メディア: 文庫
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わたしたちはみんな一人ずつよ。めいめい自分の悪魔と二人きり。
というわけで今回は、ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』(ハヤカワミステリ文庫)です。
本作は連作短編集になりますので、個別に感想をば。
・『完全』
長身の女警察官キャサリンが、ある男を射殺してしまった件についてのお話。
なんというか、どこまでも救いがない内容なんですが、不思議と惹きつけられるものがあります。そこに圧倒的なリアルがあるというか、そういう実感に基づいたものが、本作にはあるように思います。
・『味、感触、視覚、音、匂い』
五感を通して幼少期のことを思い出していく、というストーリーですが、キャサリンという刑事がどういう存在なのか、ということを騙るうえで不可欠のパートであるように思います。
・『キャサリンへの挽歌』
本作は趣向を変えて、キャサリン以外の警官(多分新米警官だと思います)の視点から語られるというスタイル。本人以外の、別の視点を取り入れることの意味を明確に利用した一作であるように思います。
・『告白』
女性警官リズの物語の、イントロダクションともいえる作品。ごく短い物語ではありますが、そこに大きな意味があるように思います。
・『場所』
かつて勤務していたころの話を通して、自分がいるべき場所について綴った物語。なんとなく、これと巻末の『わたしがいた場所』は中高生に読んでほしいように思いました。
・『制圧』
ダブルミーニングになっているんですね、このタイトル。読んでから気付きました。
こういう、ワンシーンを通して複数のことを描く、という手法はかなり好きです。
・『銃の掃除』
誰もいなくなった部屋で、銃の掃除をしているだけの話ですが、そこには圧倒的な喪失感と切なさが漂っています。かなり好みの作品。
・『傷痕』
終わったと思っていた事件が、過去から追いかけてくる、といった感じの話。
事件に限らず、現実でもこんなことは往々にして起こりうると思うのですが、本作はラストシーンがとりわけ素晴らしいと思うのです。
・『生きている死者』
僕はこの中編が一番好きです。一つ前の『傷痕』がピックアップされがちですが、僕は本作こそが作者の真骨頂なのではないかな、と感じました。
・『わたしがいた場所』
一つ前の作品と明確に地続きになっている、という点ではこの中では少し異色かな、と思います。『場所』とテーマを同じくしているにもかかわらず、ここまでカラーの違う作品を書くことができるのか、と思いました。
という感じ。
この作者、僕はとても気に入ったんですが、読める著書はこれだけみたいですね。文章も翻訳ものにしては読みやすいので、残念至極。
ミステリ、というよりは警察小説だと思いますが、全十編ともに人物の描写が素晴らしいと感じました。作者は警察官を経験しているので、その影響もあるかもしれません。かなりお薦めの一冊です。