絲山秋子『豚キムチにジンクスはあるのか~絲的炊事記~』
おひとり様の日常飯、ここにあり
ということで今回は、絲山秋子『豚キムチにジンクスはあるのか~絲的炊事記~』(マガジンハウス)です。
ご存じ(かどうかは知りませんが)、直木賞にもノミネートされたことがある芥川賞作家(両賞にノミネートされたことがある作家は珍しいかと思います。角田光代、島本理生、宮内悠介あたりがそうだったかと)、絲山秋子の料理エッセイです。
このブログでは初登場ですが、僕はこの作家がとても好きで、折に触れて作品を読み返すことにしています。今回もそんな一回です。
本作は料理エッセイとしてはやや異色で、絲山秋子の生活にかなり密着した内容が多いように思います。
とはいえ、冬に冷やし中華を食べたり、夏にブイヤベース(らしきお鍋)を作ってみたり、父親に教わってキッシュを作ってみたりもしていて、内容はバラエティに富んでいると思いますけど。
僕個人の意見ですが、食べ物のエッセイを書くのがうまい作家は作品の外れが少ない、という法則があるんですが、この絲山秋子はその筆頭のような作家です。登場する料理はなんてことのない(言ってしまえば生活感のある)ものが多いのですが、これがまたいちいち美味しそうで。なんというか、こう、想像力に訴えてくるんですよね。
ドラマ『孤独のグルメ』(松重豊主演)もそうですが、『どこからどう見たって美味しいもの』を見せられることによって、受け手の想像力をビンビンに刺激してくるというのがここ最近のトレンドのようにも思います。本作もどちらかといえばその類で、シンプルな文章なのにこれほど想像力を刺激される、というのが本作の魅力かなあ、と思います。