道尾秀介『透明カメレオン』
弱いの反対は、強いじゃない
ということで今回は、道尾秀介『透明カメレオン』(角川書店)です。
突然ですが、僕には新刊が出たらとりあえず買っておく作家、というのが何人かいます。この道尾秀介さんもその一人です。
道尾秀介という作家を知ったのは、いつだったかな……たしか『シャドウ』(創元推理文庫)がミステリフロンティアから刊行されたばかりのころで、知り合いに薦められてそれを読んだのでした。
それから既刊を一気に集めて、今ではすっかり道尾秀介という作家の虜であります。
本作は、そんな道尾秀介の作家生活十周年記念作品として刊行されたものです。観光自体は去年の一月で、ほぼ二年前なんですが、当時一度読んでいるので、今回再読となります。
で、感想。
これぞ道尾秀介、といった感じの作品でした。
僕としては道尾秀介といえば、『片目の猿』(新潮文庫)のような、技巧を凝らしたエンタメ作品の印象が強いのですが、本作はその流れを色濃く受け継いでいるように思います。
また、『秘密』や『嘘』といった過去の道尾作品においてキーワードとなっていたものもちりばめられていて、これまでの道尾秀介の軌跡を一冊にまとめたような、まさしく集大成的な作品という表現が似合う一冊になっていたと思います。
また、一個のエンタメ作品としても良質で、このところの作品と比べて、文体がやや軽妙なものになっているのも、この作品の雰囲気を意識してのものだろうと思います。
個人的には中盤あたりの展開は、もっとコメディっぽく書いてもいいのかなあ、という気がしないでもなかったのですが、これくらいにとどめておくのがいいのかもしれないなあ、という気もします。
あと、ここだけの話ですけれど、とある伏線はちょっとわかりやすすぎたかなあ、と思いました。初見の時点で「ああ、これは複線だな」とわかってしまったのがちょっと残念。