伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』
時空のねじれ、みたいなもんかな
というわけで今回は、伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』(新潮文庫)です。
誤解を恐れずに言いますが、僕は伊坂幸太郎という作家の作品が、それほど得意ではありません。というのも、特に初期の作品に顕著なのですが、綿密に伏線を貼って、それをきっちりと回収しているのにもかかわらず、文体を軽くしてそれと気取らせないようにしているような、ある種のスタイリッシュさを感じさせる作法が、どうにも肌に合わないのです。
それでも伊坂作品を読むのは、その中にも好きな作品(『砂漠』(新潮文庫)とかな)があるのと、今手に取ったこの作品が、実はそうなんじゃないかという期待をしているのと。
まあ、そんなわけで、感想です。連作短編集なのでとりあえず一つずつ感想を書いてみたあと、総括したいと思います。
・『首折り男の周辺』
僕の思う伊坂幸太郎作品という感じの短編。みなさん、これですよ(大声)。このよくできた感じ。嫌な表現をすれば、物語として『出来すぎている』感じ。これが僕は割と苦手なんですが、なんというかこう、もっと物語としてささくれのようなものがあってもいいのに、と思うのです。いや、まあ、面白かったんですが。苦手なのと面白さはまた、別ということですね、はい。
・『濡れ衣の話』
一転して、シンプルな話でしたね。別の短編を参照すると、その作品が(あるいは、この作品が)より鮮やかに浮き彫りになる、というのはこうした、連作短編ならではの手法かと思います。
・『僕の舟』
これも最初の短編『首折り男の周辺』と同じく、きれいすぎるまとめ方をした話ですが、ここまでやる必要はなかったのではないかなあ、と思います。捉えようによってはロマンチックな話で、とても好ましいのですが、なればこそ、ここまで技巧的にならなくてもよかったのではないかとも思います。
・『人間らしく』
これは好みの作品でしたね。
僕は割と早い段階で物語のギミックに気付いたのですが、ラストの落ちは秀逸でした。
・『月曜日から逃げろ』
これも好みの作品。
伊坂作品の中の『お気に入り』は、こういうトリッキーなタイプのものが多い気がします。中でもこれは、特に好きな作品でした。でも正直、あの作品はもっと早い段階で作中に出したほうがよかったかもしれないなあ、とも思います。
・『相談役の話』
なんかいきなり怖い話が出てきた、と思ったら、これって初出が『幽』という雑誌なんですね。納得。
僕はこの雑誌を読んだことがないのですが、まあそういう雑誌なのでしょう。タイトルとか、そのままだし。
・『合コンの話』
本当にただ、合コンをしているだけの話。
おしぼりの話は参考になりました。使う予定はなさそうですが。
で、全体の感想なんですが。
面白かった。
面白かったけれど、ここまでする必要は果たしてあったか、という印象。
一つ一つの短編が、連想ゲームのように(世代的に伝わらない人もいるかと思いますが、マジカルバナナみたいに)繋がっているのですが、ところどころそれを意識しすぎているようにも思います。
たとえば、『僕の舟』の老夫婦は『首折り男の周辺』に登場しますが、単行本収録時に名前を変更して、この形になったんだそうです。どちらかの作品において老夫婦の名前をぼかしておく、くらいのほうがよかったかなあ、という気がしないでもないです。
あるいは、『合コンの話』において、冒頭で『首折り男とは無関係である』という旨があえて書かれますが、これを書く必要はあったのか、という気がしてしまいます。こういう部分は、読者の想像力に任せてしまったほうがいいのに、と感じてしまいます(というか、僕は任せてほしいと思うんだけどなあ)。
とはいえ、やはり面白い。
収録されている作品が多く、一つ一つも長いのでボリュームが結構あるのですが、読んで損はしないと思います。