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メガネストの読書日記

眼鏡好きのメガネストが、読書日記をつける

村田喜代子『龍秘御天歌』

 

龍秘御天歌 (文春文庫)

龍秘御天歌 (文春文庫)

 
百年佳約

百年佳約

 

  人間は一生一遍ぎりしか死ねんのやど

 

 というわけで今回は、村田喜代子『龍秘御天歌』(文春文庫)です。

  村田喜代子さんは好きな作家で、これまでいくつか著作を読んできましたが、本作はいつか読もうと思い本棚のいいところに挿しておいたのでした。なんで今かといえば、単純に気が向いたからとしか言いようがないのですが……(^^;

 ところでこの本、僕の家にはハードカバーで置いてありました。ハードカバーは平成十年発行……ということは十六年前ですな。アテネオリンピックが開催されたとして僕はX歳……まだ眼鏡をかけていない頃ですな。

 当然そんな時分にこの本を買ったわけではないので、後年買い求めたはずなのですが、なんでハードカバー……?

 と思ったのですが、続編にあたる『百年佳約』(講談社がどういうわけか文庫になっていないので、ハードカバーで揃えたのだということを読みながら思い出しました。

 

 そんなわけで(どんなわけだ)、感想。

 江戸時代、九州。皿山の地で龍釜と呼ばれる窯焚きの村を起こした人々。その長、辛島十兵衛本名を張成徹(チャンソンチョル)。彼の葬儀を描いた歴史小説が、本作となります。

 本作には二つの読み方があるように思うのです。一つは葬儀という生き死にの関わった儀式を通じて、日朝の隔たりを描いた作品として、もう一つは十兵衛の妻百婆が夫を朝鮮式に弔うという、実現困難なミッションに挑むエンタメ作品として。

 基本的には前者として読むのがいいようにも思いますが、前者のテーマを内包した後者として読むのも面白いのではないかと個人的には思います。中盤以降なんかは、もろにパワーゲームの様相ですし。

 で、感想なんですが、いろいろと衝撃的でしたね。

 僕個人としては、人間が(たとえば家族であったとしても)完全に解りあうことはできないと考えていますが(それゆえに面白いのだとも思いますが)、そのことをまざまざと思い知らされたような感じ。

 日本人と朝鮮人、文化も言語も、何もかもが違っている二つの民族の隔たりを、葬儀という一つの儀式を通じてこれほどまでに鮮やかに描き出すことができるとは。

 登場人物の思想の対比を、うまく人物に投影してテーマとメッセージ性を強めているようにも思います。

 他方で、思想の違いから対立した母子のせめぎ合いを描いたエンタメとしても面白く、特に終盤、ある事柄を巡って百婆と息子の十蔵が火花を散らすくだりはページをめくる手を早めさせます。

 思うに、こういうテーマ性の強い作品はエンタメと非常に相性が良く、本作もまたその相性の良さをいかんなく発揮した傑作であるといえるでしょう