メガネストの読書日記

眼鏡好きのメガネストが、読書日記をつける

キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』

 

 

霧に橋を架ける (創元SF文庫)

霧に橋を架ける (創元SF文庫)

 

 

 それでも素晴らしいことなのよ、霧を渡るということは

 

 というわけで今回は、キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』(創元SF文庫)です。

 初顔の作家ですね(というか、初訳らしいです)。タイトルが素敵だったのと、帯の『人間を寄せつけぬ謎の大河に初めての橋を架ける』という惹句が気に入ったので、本屋で購入してきました。

 っていうか、ここに来て初めて海外の作家を紹介するんですね。意外!

 というわけで、感想。本作は短編集なので、それぞれの作品ごとに感想を書いていこうかと思います。

 

・『26モンキーズ、そして時の裂け目』

 こんにちは、キジ・ジョンソンです、といった風情の作品。

 作品に漂うもの悲しいような喪失感と、どこか温かな読後感が共存する作品で、これがキジ・ジョンソンという書き手のスタイルです、という感じの一作。正直好みです。

 

・『スパー』

 ↑であんなこと言ってますが、すまんありゃ嘘だった。

f:id:mahiro_megane:20160713115215p:plain……というか、この作品がずいぶん例外的なもののような気もしますが。

 たとえばあらゆるものがなくなってしまったとしても、セックスだけはできる、みたいな話なのかな、とも思います。あるいは、人間から色々なものをどんどん削っていって、最後に残るのはセックスである、という話なのかもしれません。読んだ人の数だけ解釈がありそう。

 

・『水の名前』

 自分の携帯電話から聞こえてきた水の音が、一体どんな水の音なのか、と考える話。その先は未来へつながっているのか、あるいは過去か、それともすぐ近くなのか。

 

・『噛みつき猫』

 SFというよりはファンタジィのような風情の作品。離婚しそうな両親に対する、セアラの尖った感情を、噛みつき猫という生き物に投影しているのかな。

 ところで全然関係ないんですが、タイトルを見た瞬間に『あずまんが大王』の猫

f:id:mahiro_megane:20161118221453g:plain←こいつです。

 を思い出しました。

 

・『シュレディンガーの娼館』

 あらゆるものが揺らいでいて、《娼館》という定義のみがたしかな場所の物語。

 正直なところ、『シュレディンガーの猫』というものについてかなりあいまいな理解をしていたのですが、本作を読んでどこか腑に落ちた印象。

 

・『陳亭、死者の国』

 若い妻と、死期の近付いた夫が死者の国について考える話。

 なんとなく、夫婦は同じ考えを共有していなければならない、というような風潮がありますが(そして僕は割と、そのことに肯定的ですが)、案外違う考えを持っていてもいいのではないかな、と思いました。

 

・『蜂蜜の川の流れる先で』

 本作の中で一番お気に入りの作品。

 蜂蜜の川がリンナにとってのサムの死を暗示しているのかなー、と思いました。その先に会ったあの場所は、つまり……

 

・『ストーリー・キット』

 正直なところ、よくわかりませんでした。

 よくわからないまま話が進んでいって、そのまま終わった印象。作品と作者がリンクりているのはわかるのですが……

 

・『ポニー』

 初見で『マイリトルポニー』っぽいな、と思ったら、それを下敷きにして書かれた作品なのだそうな。

 冒頭の雰囲気とは裏腹な容赦のなさに、「ええ……」となった作品。

 

・『霧に橋を架ける』

 表題作で、唯一の中編。面白かったです。

 橋を架けるまでの描写が細かく書かれているせいか、SFと『プロジェクトX』を足したような、不思議な雰囲気に仕上がっていました。

 橋を架けたあとに一体なにが残るか。あるいは、なにが生まれるか。作中ではそういう問いかけが登場しますが、これは現実でも付きまとってくる問題かな、と思います。ある出来事があって、そこからなにを失うか、あるいはなにが生まれるか。僕たちはずっと、そういう問いかけとともに生きていくのかもしれません。

 

・『《変化》後のノース・パークで犬たちが進化させるトリックスターの物語』

 人間の身勝手さを描いた、と書いてしまうと非常に陳腐な作品であるように感じられますが、持ち込まれたSFの要素によって、苦みのあるシニカルな作品に仕上がっているように思います。

 

 というわけで、それぞれの作品の感想を書いてみたわけですけど、全体としては非常によかったかな、と。いいSF探してます、というそこにあなたにおすすめな一冊。