稲葉稔『圓朝謎語り』
稀代の噺家、圓朝が大傑作を作り上げた背景には、こんな事件があった(ら、いいな)
というわけで今回は稲葉稔『圓朝謎語り』(徳間文庫)です。
時代小説、実は初めて読みます。
にもかかわらずなんでこの本なのかといえば、単純に本屋で目に付いたからなのでした。……ん? ちょっとおかしいですね?
この本、文庫になったのは2013年で、今は2016年。「本屋で目に付いた」ということは平積みになっていたはずで(少なくとも棚挿しではなかったはず)、ということはつまり、新刊の時に見つけて買って、そのまま積んでいたってことですね!
……反省します。
ともあれ、内容説明。
稀代の噺家である三遊亭圓朝は、新しい噺を生み出す必要性を感じていた。そんな折にかわいがっていた蕎麦屋の娘お吉が何者かに殺されてしまう。事件を追い続けることで新しい噺の糸口をつかもうとするのだが……
という感じ。
実在の人物三遊亭圓朝を主人公とし、名作『牡丹灯籠』を完成させるまでを描いた物語です。
という書き方をすると本作の面白い部分をすべてすっ飛ばした感じになってしまいますね(^^;
本作の特徴は、なんといってもその切り口でしょう。なんと、ミステリ仕立てになっているのです。
僕は時代小説をほとんど読まないので、この手法が特殊なものなのか今一つ判断がつかないのですが、個人的にはとても面白く感じました。噺家の圓朝が探偵役、というのもよかったと思います。お吉殺しに積極的に関わっていく無理のない理由を作りつつ、それを自身の中に落とし込んでいくという、まさに探偵役にうってつけのポジションであるように思います。
基本的には圓朝が容疑者たちのところを訪ねまわっていくだけという構成なのですが、その過程で圓朝の思考がまとまっていき、事件の顛末とともに『牡丹灯籠』が完成していく、という構成は見事の一言。オススメです