メガネストの読書日記

眼鏡好きのメガネストが、読書日記をつける

塩田武士『罪の声』

 

罪の声

罪の声

 

 因数分解を続けた果てに、自分は素数を手にすることができただろうか。

 

 というわけで今回は塩田武士『罪の声』(講談社です。

昭和最大の未解決事件にして、日本犯罪史上屈指の大事件でもある《グリコ・森永事件》をフィクションに落とし込んで物語として構成したのが、本書となります。山田風太郎賞を受賞したことでも話題になった本書ですが、かなり良かったです。

 まず感じたのは、膨大な取材と資料の読み込みをうかがわせるほどにリアルが息づいているということです。具体的にどこが、と言われると説明が難しいのですが、作中のいたるところから現実感のようなものが漂ってくるように思いました。帯に惹句として『圧倒的な取材と着想で描かれた~』とありますが、その言葉に偽りなし、ということを作中からひしひしと感じることができます。

 また、物語としても良質で、作中の曽根俊也のパートをはじめとするいくつかの部分は作者の想像(というと少し過言かもしれませんが、膨大な取材とそこから導き出される状況から創造したものという意味で、想像とします)で作られているはずなのですが、それが事実とうまく混じり合っていて、物語としての《ギンガ・萬堂事件》を描き出す経糸と緯糸になっていると感じました。

 立ち上がりは静かな調子で、ともすればやや退屈に感じる向きもあるかもしれませんが、序章の終わりから一気に火がついて、ページをめくる手を止めるのが大変でした(^^;

 個人的には、こうした過去の事件を追っていく形式の物語が好みなのもありますが、非常に楽しい読書となりました。オススメです