須賀敦子『ユルスナールの靴』
きっちり足に合った靴さえあれば、自分はどこへでも歩いていけるはずだ
というわけで今回は、須賀敦子『ユルスナールの靴』(河出文庫)です。
完全に初顔の作家ですね。タイトルからして僕好みで、本屋で見かけるたびに購入を検討していましたが、こういう本はどうしても後回しになりがちで、本作もずいぶん長いこと購入せずにいました。
そういう本をどうして手に取ったのかというと、冒頭に引用した一文が、ページを開いた瞬間に目に飛び込んできたからでした。この一文を目にした瞬間、「あ、この本は好きな本だな」と直感したため、そのままレジへと持っていきました。まあ、そのまま一年近く積読していたんですけどね。
ともあれ感想。
なんとも不思議な本だな、というのが最初の印象。小説なのか、エッセイなのか、自伝なのか。あるいは、そのすべてなのかどれでもないのか。どれも正解であるような気がしますし、どれも間違っているような気もします。
ただはっきりしているのは、フランスの女流作家マルグリット・ユルスナールをめぐる、私(おそらくは須賀敦子さんのことでしょう)の物語を、靴というモチーフを用いて綴ったものだということです。
それで感想なんですが、いいですね。とてもいいですね。
一人の作家に思いを馳せながら、自分の歩んできた道を振り返る。するとそこに様々なリンクが見えるような気がする。
そういう経験を幾度かしたことがありますが、一続きの物語にするとこういう形になるのだな、という感じ。作中で様々な場所へ旅しているにもかかわらず、筆致が静かで穏やかな文章になっているのは、体がどこへ行こうとも軸足が作家、マルグリット・ユルスナールから動いていないからなのかな、と感じました。少し熱めのお風呂に入りながら、じっくり読みたい一冊。