泡坂妻夫『11枚のとらんぷ』
全然関係ないけれど、『11枚のとらんぷ』と『六枚のとんかつ』って字面が似てるよね。
というわけで今回は、泡坂妻夫『11枚のとらんぷ』(角川文庫)です。
ミステリ作家、かつマジシャン。どちらの顔が有名かは人によるかと思いますが、僕個人としてはマジシャン厚川昌男という名義(というか、こちらが本名なのですが)のほうを先に知って、それから作家泡坂妻夫に触れました。本書はそんな泡坂妻夫の第一長編になります。
で、感想。
って感じです。失礼、すげーよかったです。
本書にはタイトルにもなっている『11枚のとらんぷ』という作中作が登場しますが、作中作で真っ先に思い出したのが米澤穂信『追想五断章』(集英社文庫)でした。あれとは作中作の扱いが異なっているのですが、個人的にはこちらのほうが好みです。
物語の真ん中に堂々と横たわる作中作『11枚のとらんぷ』。優れているのはこれが単一の短編集(というよりもカードマジック集としての性格が強いのですが)としても楽しめるという点ではないかと思います。
初出が四十年前(!)なのでさすがにクラシックな感は否めませんが、僕は舞台などで大掛かりな装置を使うマジックよりも、こういうタイプのマジックが好きなので、十分に楽しむことができました。
そんな作中作を挟んで明かされる事件の真相は、おおよそ思った通りのものでしたが、読んでいる最中に「あれ?」と思った部分がそのまま真相に直結していたので、事件について自分で考えたい系読者の方にはいい造りになっているのではないかな、と思います(もっとも、僕はそういう読者ではないのですが……)。
全体的には、非常に技巧的で、しかしそれに傾倒することなく物語としても面白い、しかも奇術集としても楽しむことができる一粒で三度おいしいようなミステリでした。