大島真寿美『ピエタ』
たった一枚の楽譜が、あらゆる人の運命を大きく変えたのです。
というわけで今回は、大島真寿美『ピエタ』(ポプラ文庫)です。
これも長らく放置していた本ですね。たしか、発売直後に買っておいて、そのまま放置しておいたんですが、思い立って積読から出して読み始めたわけです。
舞台はイタリア、ヴィヴァルディの生きたころ。ヴィヴァルディの関わった慈善院《ピエタ》から、この物語は始まります。
物語に派手なところはなく、ともすれば退屈な部分もあるかもしれませんが、丁寧に作られた物語だな、と感じます。僕は著者の他作品を読んだことはありませんが、物語に対する篤実な姿勢を見たように思います。物語が静かに流れていくその様は、どことなくフランスの映画みたいだな、と感じました(舞台、イタリアですけど)。
作中、とある人物がこんなことを言います。
❝あの人はただの石ころになりたかったんでしょう。美しい美しい音楽を奏でるた
だの青い石ころに❞
『あの人』というのはヴィヴァルディのことなのですが、やっぱりあれなのですかね。有名になるとこういう感情を抱くことがあるのでしょうか。一般人的にはこれとは真逆の、いわゆる承認欲求が強く出ることも多いように思うのですが(Twitterで犯罪報告する人なんか、こういう傾向が強そうですね)、結局のところ人は、手にしていないものを欲する、ということなのかもしれません。