沢村浩輔『夜の床屋』
夜だというのに明かりがついていた一件の床屋から、すべては始まった。
というわけで今回は、沢村浩輔『夜の床屋』(創元推理文庫)です。
今回は連作短編集なので、個別に感想を述べていきたいと思います。
・『夜の床屋』
表題作。特に難しいところのない、まっすぐなミステリで個人的には好感が持てます。
・『空飛ぶ絨毯』
割ととんでもない感じの話で、メインの事件よりは、その周辺のことを騙りたいための話という印象。というかこのトリック、無理でしょ……
・『ドッペルゲンガーを捜しにいこう』
主人公の佐倉が、小学生たちとドッペルゲンガーを捜しに行く話。個人的にはこの短編集の中で一番好き。ギミック、舞台設定ともに好みでした。
・『葡萄荘のミラージュ』
Ⅰ、Ⅱとありますが、一つの話みたいなものなのでまとめて。
猫が出てくる、猫好きにはたまらないミステリ。もっとも、作中での猫の扱いがやや雑ですけど(^^;)
個人的にはこういう、人が死なない屋敷ものはもっと見てみたいように思います。
・『《眠り姫》を売る男』
なるほど、こういうのもあるのか、という印象。ここまで現代日本が舞台だったので、これと『葡萄荘のミラージュ』で、作者の新たな引出しを見たような気分。惜しむらくは、××ということをあと出しにしていたらもっとよかったかもしれない、という部分でしょうか。
・エピローグ
なるほど、そう来たか! という感想。ここで「なんだかいい雰囲気の短編集だなあ」から「これ、超好みなんだけど!」に変わりました。
全体の総括としては、好みの短編集でした。
一件つながりがなさそうなそれぞれのエピソードが、ある一点できれいにつながっていくのは見事の一言。特に、エピローグで作品に付け加えられた要素はとても僕好みで、読後感もとてもよかったです。ミステリをあまり読まない人にもおすすめの一冊