メガネストの読書日記

眼鏡好きのメガネストが、読書日記をつける

万城目学『バベル九朔』

 

バベル九朔

バベル九朔

 

 四冊目は万城目学『バベル九朔』です。 

 

 万城目学といえば、ここ最近は時代小説や沙悟浄を主人公とした長編を書いていましたが、久しぶりの現代が舞台となった作品です(調べてみたら五年ぶりくらいらしいですね)。

 書店で本作を見かけてぱらぱらしたとき巻末に、

 

《初出・「文芸カドカワ」二〇一五年五月号~二〇一六年三月号》

 

とあったので、「おや?」と思いました。というのも、僕にはこの『バベル九朔』というタイトルに見覚えがあったのです。しかも、何年か前に。

 家に帰っていろいろ調べてみたところ、どうやら『野生時代』という小説雑誌に本作の原型となった短編が載っていたようです。僕がたまたまその月の『野生時代』を購読していて、そこで目にした模様。

 

 さて、本作ですが、やはり目を引くのはタイトルでしょうか。万城目学はこれまでも一見して意味がわからないタイトルを作品につけていましたが、今回もそれは健在(読み始めればすぐに意味がわかるのも、健在)です。

 

 本作は小説家を目指して仕事を辞めた主人公が、祖父の遺した雑居ビル《バベル九朔》の管理人をしつつ応募作品を書いている日々を過ごしていると、《バベル九朔》を黒ずくめの美しい女が訪れて――という話で、これまでの万城目作品同様に、怪しげな雰囲気が漂っていて否応なく期待させられます。

 物語の拡げ方、収束のさせ方といった技巧の鋭さ、現代が舞台なのに『ここではないどこか』のような、浮世離れした部隊の雰囲気づくり、どれをとってもさすがの一言ですが、本作ではもう一つ、嬉しい仕掛けがありました。

 話は変わりますが、本作の帯には《作家デビュー十周年》の文字が踊っています。ということは、『鴨川ホルモー』から十年経ったわけですが、本作にはその十年が余すところなくちりばめられているなあ、と感じました。

 というのも、あれとかそれとかこれとか、作品の端々にこれまでの万城目作品の読者をニヤリとさせる描写があるのです。スターシステムじゃないですが、そういううっすらとしたクロスオーバーは個人的に好きなので、気付いたときは思わず

「ほほう、( ̄▽ ̄)」

と心の中でニヤニヤしてしまいました。

 あ、もちろん本作が万城目学初めての作品だという方も、なんの問題もなく面白いので、ご心配なく。その場合は遡って万城目作品を読んでみるのも面白いと思います。