メガネストの読書日記

眼鏡好きのメガネストが、読書日記をつける

井上真偽『聖女の毒杯~その可能性はすでに考えた~』

 

 

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

 

  奇跡は実在するさ、絶対にな

 

 ということで今回は井上真偽『聖女の毒杯~その可能性はすでに考えた~』(講談社ノベルスです。

 前作『その可能性はすでに考えた』の続編にあたります。

 やっていることは基本的に同じなのですが、上苙の不在という変化を与えることによって、物語の差別化を図っています。

 また、提示される謎も『同じ杯から酒を飲んだ八人のうち、三人が死亡する』という、前回に輪をかけて不可思議なもので、なんというかこう、あらすじを読むだけでワクワクしてしまいますね。

 本作の優れているところは、前作とやっていることは同じでありながら、魅力はまったく別方向に振りきっているところだと思います。ラストに明かされる真相は、人によっては肩透かしを食らうようなものかもしれませんが、その可能性から徹底的に目をそらすように作中で仕向け、このラストにつなげるのはうまいなあ、と個人的には思いました。

井上真偽『その可能性はすでに考えた』

 

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

 

 

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

恋と禁忌の述語論理 (講談社ノベルス)

 

 

 その可能性は、すでに考えた

 

 ということで今回は井上真偽『その可能性はすでに考えた』(講談社ノベルスです。

 デビュー作でもちらっと登場した探偵上苙丞(うえおろじょう)を主人公とした作品で、いわゆる一つの多重解決ものと言っていいのではないでしょうか。

 少年が、首を切り落とされながらも少女を抱きかかえて運んだ、という摩訶不思議な状況を『奇跡であるかどうか判定する』というのが本作の内容となります。

 いいですねえ、井上真偽。最高です。

 デビュー作の『恋と禁忌の術語論理』も好みでしたが、個人的にはこちらの方がより好みでした。まず、怒涛の展開がいいですね。仮説が提唱され、それを覆す、という展開がたくさん重なって、クロワッサンのような構造になっています。一つ一つの仮説もそのまま解決編として採用できそうなほど高いクオリティを誇っているにもかかわらず、それを惜しげもなく使い捨てるという贅沢さ。ミステリでありながら、バトルものを彷彿とさせる熱い展開とエンタメ性、まさに新世代のメフィスト賞作家とでもいうべき尖りっぷりには舌を巻きます。

 キャラクターがやや尖っているので、その点では人を選ぶことかと思いますが、基本的には広くお勧めしていきたい一冊。

勇嶺薫『赤い夢の迷宮』

 

赤い夢の迷宮 (講談社文庫)

赤い夢の迷宮 (講談社文庫)

 

 

悪魔に食われろ青尾蠅 (創元推理文庫)

悪魔に食われろ青尾蠅 (創元推理文庫)

 

 

  僕は今日、久しぶりにみんなと顔を合わせる。

 

 ということで今回は、勇嶺薫『赤い夢の迷宮』(講談社文庫)です。

 本作はティーン向けミステリ作家としてブイブイ言わせている作家はやみねかおるの、初の大人向けミステリとして刊行されました(刊行当時、そんな記事をどこかで見たような……)。今回も知り合いの方に薦められて読んでみたわけですが(はやみねはどれから手を出していいかわからないので、今後もこのスタイルで読んでいく所存)……

 

 うん、ちょっと評価が分かれそうな作品ですね。これをミステリと呼びたくない人もいるかも。僕自身、ミステリというよりもニューロティックスリラーとして読むのがいいと感じました。

 個人的には、作中の重要なギミックが割と早い段階でわかってしまったのが残念で、そこがミステリとして読まない方がいいんじゃないかと思う主たる要員なわけですが、一方でスリラーとしては非常に優秀だったように思います。

 まず、雰囲気作りがいい。閉じられた館、凄惨な事件と割とよくあるシチュエーションですが、緊張感の高め方が巧みだと思います。

 また、ラストの展開はまさに、これぞニューロティックスリラー! というべき形で、こういう物語を久しく読んでこなかった(『悪魔に食われろ青尾蠅』以来かな)のでなんだかうれしくなりました。

 刊行当時、名前をわざわざ漢字表記にした理由がよくわからなかったのですが、なるほどこれはたしかに従来のはやみねかおる名義で出してはいけない作品だったように思います。面白かったです。

高山なおみ『たべる しゃべる』

 

たべるしゃべる (文春文庫)

たべるしゃべる (文春文庫)

 

  人の数だけ人生があり、食卓がある

 

 ということで今回は、高山なおみ『たべる しゃべる』(文春文庫)です。

 本作は料理家高山なおみさんの対談集で、より正確に言えば、《高山なおみから見た仲良しな人たち》といった風情のエッセイになります。

 登場する人たちは様々な人生を歩んでいて、高山なおみさんはそれに合わせた料理を毎度、作っていきます。その料理は千差万別で、食と生活と人生というのは、角も密接につながっているのだな、と感じました。

中山七里『連続殺人鬼カエル男』

 

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)

 

 

 

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

 

 

 奴はいったい、どんな法則でもって被害者を選んでいるのだ

 

 ということで今回は、中山七里『連続殺人鬼カエル男』(宝島社文庫です。

 中山七里といえば『さよならドビュッシーをはじめとした《岬洋介シリーズ》が有名ですが、本作はそれとは一線を画したテイストです。連続猟奇殺人をテーマとした本作は、ただし《岬洋介シリーズ》と同じく音楽をテーマとしています。同じ人間が、同時期に、同じテーマを用いてこれほど方向性の違う作品を書くことができる、という時点で驚愕に値しますが(本作は『さよならドビュッシーと同時にこのミス大賞に応募されたものなのです)、ジャンルとしても全くの別方向に振りきっているというところに注目したいところ。

 正直、中盤から後半は少しやり過ぎ感のある描写がありますが、創作ですからこれくらいのバランスがいいようにも思います。ただ、後半の犯人が明かされるあたりは、もう少しやりようがあったような気がするなあ、となんだかもやもやしながら読んでいました。

 あ、物語の締め方は好きです。これはいいエンディングだと思うのです。

 総合して言うと、従来の中山七里ファンにはお薦めできないものの、サスペンス好きの方には広く薦めていきたい所存。作家、中山七里の器用さと作風の広さを知る、という意味では有意義な一冊でした。

佐川芳枝『寿司屋のかみさんおいしい話』

 

寿司屋のかみさんおいしい話 (講談社文庫)

寿司屋のかみさんおいしい話 (講談社文庫)

 

  寿司屋のおいしいもの、教えます

 

 ということで今回は、佐川芳枝『寿司屋のかみさんおいしい話』(講談社文庫)です。

 

 以前紹介した『寿司屋のかみさんうちあけ話』の続編となります。

《関連記事》佐川芳枝『寿司屋のかみさんうちあけ話』

 前作と今作の二冊を、僕は小学生のころによく読んでいた記憶があるのですが、おそらくこちらの方がよく読んでいたのではないでしょうか(そういう記憶がある)。

 内容は寿司屋の内情よりも、寿司屋で出てくるおいしいもの(あるいはまかない)などの話に重点が置かれていて、読んでいてお腹が空くような内容になっております。

 お寿司が好きな人にはぜひともお勧めしたい一冊。

暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を!11~大魔法使いの妹~』

 

 塩漬けクエストです

ということで今回は、暁なつめこの素晴らしい世界に祝福を!11~大魔法使いの妹~』(角川スニーカー文庫です。

 久しぶりの日常回、といった風情ですね。このお話はやはり、始まりの街アクセルに軸足が置かれているのだなあ、と感じます。

 今回は長い間依頼を請けるものがなく、放置されていたクエスト――通称『塩漬けクエスト』をこなしていくお話です。初期にとりあえず張っておいたであろう伏線を回収したり、関係各所の関係が少しずつ進展したり、ギルドのお姉さんの名前が発覚したり(個人的にはこれが一番衝撃でした)、内容的にはいろいろなことが起こったように思います。

 そして、ラストですよ。これ、どうするんでしょうね……いろいろな意味で次巻が楽しみです。

 

《関連記事》

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