ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷』
- 作者: ジョン・ディクスン・カー,加賀山 卓朗
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/08/25
- メディア: 文庫
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ということで今回は、ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷』(ハヤカワ・ミステリ文庫)です。
7・5/10点
三冊目のカーですね。相変わらず素敵な怪奇小説です。
ミステリとしては、まあ……うん、みたいな感想になるんですが、本作は怪奇小説として楽しみたいですね。怪しげな雰囲気とオカルティズム、それらが舞台を暗く彩っています。文体がやや合わなかったのか僕は目が滑りがちでしたが、この文体がまた世界観をうまく盛り立てているようにも思います。
個人的には19章のある一説がとても好きで、ここが本作のハイライトであるとさえ感じるのですが、これがラストをより鮮やかにしているように思います。
青山文平『半席』
というわけで今回は青山文平『半席』(新潮社)です。
点数:9・5/10点
界隈で評判になっていた時期に買って、ここまで寝かしていました(理由は聞くな)。で、今回読んでみたんですが、やはり青山文平はいいですね。
・『半席』
表題作。『春山入り』(単行本は『約定』というタイトル)にも所収されているのですが、シリーズ化に際して改めて所収される運びとなりました(多分)。
これ、いいですね。そら評判にもなるわ。ラストシーンはとりわけ素晴らしいかと思います。
・『真桑瓜』
僕はこれが好みでした。オチのつけ方が落語的というか、最後の一ひねりがいい感じに効いてるんですよね。
・『六代目中村庄蔵』
なんというか、せつない話ですね。なにかが少し違っていたら、こんなことは起こらなかったのに。そういうことは現実にもよくあると思います。
・『蓼を喰う』
これも鮮やかですね。オチがお洒落で僕は好きです。
・『見抜く者』
この中ではうーん、という感じ(あくまでも、『この短編集の中では』)。最終的にはうまくまとまるのですが、解決編が唐突すぎてね……
・『役替え』
なんだか爽やかなラストですね。こういう話なのに、謎の読後感のよさが印象に残ります。『半席』で始まり、この『役替え』で終わる、という構成は素晴らしいと感じます。
という感じ。いやあ、すごかったですね。
僕はそれほど時代小説を読まないのですが、そういう人にも読みやすく、リーダビリティがしっかりと保たれているのが本作のストロングポイントだと思います。個人的には『真桑瓜』が好きですが、やはり表題作の『半席』が完成度としてはやや抜けているかな、という印象です。
とはいえ、先程も触れましたが本作は『半席』から始まり『役替え』で終わる、という構成が素晴らしく、連作短編集かくあるべしという作品だったと感じます。
小泉喜美子『痛みかたみ妬み~小泉喜美子傑作短編集~』
というわけで今回は小泉喜美子『痛みかたみ妬み~小泉喜美子傑作短編集~』(中公文庫)です。
点数8/10点
発売当初、帯に『イヤミス』の文字があったので避けていたのですが(イヤミス苦手)、ちょっとした機会があって手に取ってみました。なんだ、全然イヤミスっぽくないじゃない。あるいは、僕にいつの間にかイヤミス耐性ができていただけかもしれませんが(笑)
というわけで、各短編の感想行きましょう。
・『痛み』
これ、いいですね。オチ自体はシンプルですが、非常に好みの話でした。
・『かたみ』
この短編集では一番好みかも。オチが秀逸でした。
・『妬み』
よかったんですが、あの事実は最後に開示されたほうがより切れ味が増すのかな、と思いました。そういう意味で惜しい作品。一番イヤミスっぽい。
・『セラフィーヌの場合は』
これもいいですね。オチのつけかたが好みですね。最後にひとひねりする感じというか。
・『切り裂きジャックがやってくる』
この短編集の中では一番短い作品ですね。その短さに比例するように切れ味もよくて、とてもいいと思います。
・『影とのあいびき』
舞台設定はとても好みで、終わり方もいいと思います。用意された小道具と、舞台設定の相乗効果で、不思議な魅力が生まれているように感じました。
・『またたかない星』
これもイヤミスっぽい、かな? 後味は悪い感じ。ちゃんとした解決が与えられないのも、イヤミスらしさを助長しているかも。
・『兄は復讐する』
なんか、一番心にくる話ですね。驚くほど救いがなかった。バックボーンがもっと細かく語られていたら、大ダメージを追っていたかもしれません。
・『オレンジ色のアリバイ』
ティーン向け小説誌に掲載されたということで、難易度自体はそれなりですが、僕はこういうトリックが大好きなのです。
・『ヘア・スタイル殺人事件』
犯人当て懸賞小説だったみたいですね。嫌いじゃないですけど、色々雑だなあ、と思います(主に解決編)。でも、提示された謎が魅力的なので、いいかなあ、と(笑)
という感じです。全体的なアベレージが高く、個人的には大満足な一冊でした。これから小泉喜美子を読もうとする方にはうってつけの一冊、と言えるかもしれません。
レイフ・GW・ペーション『許されざる者』
というわけで今回は、レイフ・GW・ペーション『許されざる者』(創元推理文庫)です。
点数10/10点
本邦初訳の作家、ということで。
本作は北欧ミステリなんですが、僕自身北欧ミステリというとネスボくらいしか読んでいないので、自分の好みと合致しているかはいまいちよくわかっていませんでした(今もよくわかっていません)。なんとなくテーマが重く、重厚な作品が多いので読むタイミングを選びそう、という印象はあるのですが……
ともあれ、本作の話をします。帯に『病床の元捜査官が、25年前の未解決事件を調べ直す』という惹句があり、ほぼそのままのストーリーが展開されていきます。
本作において犯人が誰なのか、ということはさして重要ではなく、その先――時効を迎えている事件に、どういう決着をつけるのか、という点に重きが置かれています。被害者、捜査官、あるいは関係者……決着のつけかたというのは一定でなく、それぞれに気持ちの置き所を作る作業が必要なのだな、と感じさせられます。
そういう濃密なドラマを真正面から書ききったのが本作で、どっしりとした物語に腰を据えて臨みたい、というときにうってつけの一冊である、と言えるでしょう。
今邑彩『金雀枝荘の殺人』
というわけで今回は、今邑彩『金雀枝荘の殺人』(中公文庫)です。
点数7/10点
初今邑彩です。
何年か前に『ルームメイト』が映画化されたときに読もうかな、と思ったのですが、結局手が出ないまま今日まで来てしまいました(よくあることですが)。今回、ちょうど購入したばかりで目に付いたので読んでみた次第。
正直なところ、トリックはこれしかないかな、というもので特別な意外性はなかったと思います。しかし個人的には役者がそろったあとからの展開が好みで、とりわけラストシーンは僕の好みのど真ん中でしたね。
ただ、裏表紙のあらすじに『推理合戦』とあったので、もっと喧々諤々とやってくれるのかな、と期待しましたが、案外そこはそうでもなかったかな、という印象。もっとお互いの推理を戦わせるシーンがほしかったです。
甲賀三郎『蟇屋敷の殺人』
というわけで今回は、甲賀三郎『蟇屋敷の殺人』(河出文庫)です。
点数:8/10点
本作はKAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズと銘打たれ、昭和の古き良きミステリを発掘していこう、という名目で刊行された一冊になります。
タイトルを見て「おっ、館もののミステリかな」と思った人(僕ですが)もいるかもしれませんが、本作はどちらかといえば蟇屋敷にまつわる事件、といった感じで、館ものと聞いてイメージするものとは少し違っているかな、という印象です。
しかしながら、冒頭から首なし死体が登場したり、登場人物が終始思わせぶりな言動を見せたり、ちょっとしたロマンス(多分死語だと思うんですが、あえてこう言いたいですね)があったりと、物語を楽しくさせる要素が盛りだくさんとなっております。そういう意味ではどちらかといえば、エンタメ小説に雰囲気が近いかな。
トリックはまあ、うん……って感じなんですが、それを装飾している要素が魅力的であり、むしろそちらを読ませるタイプの作品なので、それほど気にすることもないかな、と思います。提示された魅力的な謎、怪奇小説的な雰囲気、ちょっとしたロマンス……そういうものを楽しむための小説なのかな、と個人的には感じました。
本作は1950年に初めて刊行され、この度初めて文庫化されたわけなんですが、こういう作品が半世紀以上も前に書かれていた、というのは控えめに言って驚嘆に値しますね。これだけたくさんの娯楽があふれている中で読んでもそのエンタメ性はまったく損なわれることはなく、それはきっと、これからも変わることはないのだろうと感じさせられます。末永く読まれてほしい作品、というのはこういうもののことを言うのだろうな、と思った次第。
ウィリアム・L・デアンドリア『ホッグ連続殺人』
- 作者: ウィリアム・L.デアンドリア,William L. DeAndrea,真崎義博
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/01/01
- メディア: 文庫
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というわけで今回は、ウィリアム・L・デアンドリア『ホッグ連続殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫)です。
点数:8/10点
いやー、面白かったです。あんまり語るとネタバレになりそうなので(なったら反転しておきますが)控えめにしたいと思います。
ジャネットがかわいいですね(大声)
……メガネにつられて取り乱しました。
気を取り直して、感想に移ろうかと思います。
メインの謎もさることながら、そこにたどり着くまでの道筋がよかったですね。肝心の推理のプロセスはやや飛躍が見られる気もしますが、おおむね満足しました。
また、本作は随所に言葉遊びが見られ、解説によるとこれがこの作家の特徴のようなのですが、それがしっかりと作品に活きているのもいいと思いました。そうだよなあ、これが言葉で遊ぶってことなんだよなあ。
本作は序盤は割と静かに展開していくんですが、それがまた《HOG》という姿の見えない犯人に対する想像をかき立てられて、後半の展開につながっていると思うのです。
正直、事故を人の手によるものと錯覚させるというメインのトリック(と言っていいかわかりませんが、便宜上)は中盤来で「そうかな」と思うのですが、この作品で語られるべきは、《HOG》それ自体ではなくて《HOG》によって起こったこととその裏側にあるものがとみに魅力的に語られていると、そう思うわけです。
読んで損はしない、そんな一冊でした。